2000年からのアストンマーティンの躍進は凄かった。過去の歴史を振り返る。
どのブランドも電動化は避けられない
2023年のアストンマーティンはここ数カ月、電動化への投資に向けて、中国の吉利汽車 (0715.HK)や米国の電気自動車(EV)メーカー、ルーシッド・グループ(LCID.O)と契約を結んだ。
5月18日、中国自動車大手の吉利(ジーリー)は英高級車メーカーのアストン・マーチンに2億3400万ポンド(2億9500万ドル)を追加出資し、今は第3位の株主となっている。
前回も触れているが、アストンマーティンは創業から現在までに7回も倒産している。
今回の中国からの追加出資によって赤字が続いている状況を打破できるかもしれない。
2023年の上半期は
2019年上半期 | 2021年上半期 | 2023年上半期 | |
車の卸売 | 2,442 | 2,901 | 2,954 |
収益 | 4億700万ポンド。 | 4億9900万ポンド。 | 6億7,700万ポンド。 |
EBITDA | 2,200万ポンド | 4900万ポンド。 | 8100万ポンド。 |
営業利益 | -3,500万ポンド | -3,800万ポンド。 | -9,300万ポンド |
フリーキャッシュフロー | -1億3,800万ポンド。 | -4,400万ポンド。 | -2億1,800万ポンド |
の財務実績となっている。
こうして見ると、車も前年度より売れて収益も上がり調子が良さそうに見えるがそうでもないとも言える。
2023 年上半期の収益は、出荷された38 台のヴァルキリーによって確実に助けられている。1 億ポンドを僅かに超える収益をもたらしたに違いない。
(因みにヴァルキリーは日本円で約4億円になると言われている。)
2019年上半期と2023年上半期を比較すると、アストンマーティン・ラゴンダ(以下からはAML)は1台1台が高い価格で多くの車を販売したにも関わらず、現金を多く消費し、より多額の損失を出したように見える。
2021年上半期と2023年上半期のAMLの状況を比較すると、さらに2021年上半期と2019年上半期を比較すると、その傾向はさらに顕著になる。
(ただし営業利益の僅かな減少を除く。)
初めに2021年上半期と2019年上半期を比較すると、その時点では他の全ての財務指標が「好転」方向に向かっていた。
しかし、2021 年と 2023 年の数字を内訳すると、AML は 2023 年上半期にさらに 53 台多くの車を販売したのにも関わらず5,500 万ポンドの損失を被ってしまった。
まだまだ安定しないアストンマーティンだが、これからDB12を筆頭に新たなモデルも出てくるので期待したい。
フォード傘下のアストンマーティン
ここで約20年前のアストンマーティンに視点を変えてみる。
2000年代のアストンマーティンは排ガス規制によって、V8 クーペは 2001 年までに事実上販売禁止され、アストンマーティンはそれに代わる新しい最高級モデルを開発しなければいけなかった。
そこで誕生したのがヴァンキッシュである。
2003 アストンマーティン ヴァンキッシュ
DB7 ヴァンテージを発展させた複雑なアルミニウムとカーボンファイバーのシャーシは現代アストンのアイデンティティのVHプラットフォームの基礎となっている。
V12 Vanquish Production at AM Newport Pagnell 2003 « Aston Martins.com
またデザイナーはイアン・カラムであり、私が最も好きなデザイナーである。
DB7もTWR時代のイアン・カラム氏がデザインを手がけたモデルで、およそ10年にわたりアストンマーティンを支え続けた。
ヴァンキッシュはDB4 GT ザガートを反映されているようなデザインであり、
筋肉質なリアと特に私はボンネット中央からフロントバンパーにかけて左右が少し抉れている部分が非常に好きである。
1998 アストンマーティン ヴァンキッシュ プロトタイプ
1998年にヴァンキッシュ プロトタイプの発表がされた。
当初リアライトはフォード クーガーから盗作と言われ、
ダッシュボードのエアコン吹き出し口はフォード kaの流用だとも言われていた。
2000年7月にドーバー社の後継者でCEO職に任命されたウルリッヒ・ベッツがヴァンキッシュを激しく嫌っていて、
より高級なボルボ製ベントに交換するよう主張し量産型ヴァンキッシュの発売に遅れが生じた。
そして実際にこのプロトタイプが製品化されることは白紙になった。
フォードの社長ジャック・ナッサーもヴァンキッシュ プロトタイプに対して
「アメリカ的すぎる、ほぼカマロだ」
と評し、リアエンドにいくつかの微調整が加えられたものの、基本的なシルエットは生き残ってはいる。
ヴァンキッシュがアストンの VHプラットフォームの起源であると指摘する人もいるが、
実際にはヴァンキッシュは VH プラットフォーム以前のモデルである。
ヴァンキッシュは高度で複雑なシャシーを使用している。
カーボンファイバーのセンタートンネルとAピラー、アルミニウム合金のスペースフレームを特徴とするヴァンキッシュの組み立て基礎は、将来のすべてのアストンマーティンに応用されることになる。
オリジナルの ヴァンキッシュは VH プラットフォーム車とはされていないが、ヴァンキッシュの一部の要素が VH アーキテクチャに進化したともいえる。
2004年からのDB9に「正式な」最初の VHプラットホームが組み込まれている。
DB9 Production at Gaydon « Aston Martins.com
ちなみにVHプラットフォームは
“Vertical”(垂直)と“Horizontal”(水平)それぞれの頭文字だが、
改めてその意味を説明しておくと、VもHも車のメカニズムに由来する名称ではなく、
「垂直方向の『V』は、すべてのモデルで共通のボディ構造原則を表して『H』は、フロントとリアのサスペンションユニット、エンジン、ダッシュボードなどのコンポーネントなど、車全体で水平方向に共有されるシステムを表している。」
と、縦展開および横展開して活用できるプラットフォームだという。
続いてエンジンだがヴァンキッシュにはフォード デュラテックV6の気筒数を2倍にしたV12エンジンが積んである。
デュラテック V6は市場で最も多用途なエンジンの 1 つで、フォード モンデオのような一般的な車だけでなく、世界中のスポーツカーにも搭載されている。
単純にデュラテックV6を組み合わせた訳ではなく、使用されたアルミニウムははるかに高いグレード であり、エンジンが低回転で扱いやすく動作するようにヘッドに多くの見直しがされた。
新しい燃焼室、より高い圧縮比、ジャガーの AJ16 からインスピレーションを得て、
渦流と乱流を助けるように設計された「タンブル ポート」インテーク、ダイレクトイグニッションも組み込まれた。
新しいエンジンは、ベースとなったデュラテック V6 よりも剛性が高く、強化されていた。
そして6年のDB7ヴァンテージで最初に登場したフォードの1999年のインディゴコンセプトのエンジンに大きく依存している。
また、ねじり剛性を高めるためにクロスボルトで固定されたメインベアリングキャップも備えていました。継続的な高速走行中にピストンを冷却するために、より大型の冷却システムとオイルスクイターも追加された。
V12エンジンは、1998 年のプロジェクト ヴァンテージのボンネットの下で初めて公の場に姿を現し、当時はワンオフとして宣伝し、450 馬力の出力と 0~100kmが5秒台と公表されていた。
そして2001年のジュネーブモーターショーで正式に市販化の発表がされた。
その後2002年にはピアース・ブロスナンがジェームズ・ボンドを務める「ダイ アナザー デイ」に登場し氷上で敵役のジャガーXKRと競い合った。
この大画面での登場はヴァンキッシュの評判に貢献し、007 シリーズのボンドカーとしてアストン マーティンの名前が再び戻ってきた。
2004 年のパリ モーター ショーで、アストン マーティンは、いくつかの機械的改良と若干のスタイルの調整を特徴とする更新版ヴァンキッシュ S (2004) を発表した。
フロントバンパーにはリップスポイラーが取り付けられ、リアゲートはダックテールとなっている。
再加工された V12 エンジンは更に出力を上げられる520馬力を発生する。
シャシーはオプションのスポーツ ダイナミック パッケージからインスピレーションを得て、よりアグレッシブなセットアップとなり足回りは固くなり、ステアリングは機敏にキャリパーの位置は変更されブレーキは大型化した。
ヴァンキッシュはフラッグシップモデルという位置付けでもあり、当時はアストンマーティン最速モデルであった。
2004 アストンマーティン DB9
そしてほぼ同時期にオックスフォードシャー (英国) のブロックサムにあるワイカム ミルで 7,000台以上製造されアストンマーティンを救ったとされているDB7の後継機DB9が2003 年のフランクフルト オート ショーで初公開された。
2004年から現在も最新モデルが製造されているゲイドン施設から生産されたのがDB9である。
フォードのオールアルミニウム VH プラットフォームとアルミニウム コンポジットのボディで作られていて、斬新なアルミニウム結合ボディフレームを使用した DB9は、
世界で最も洗練され技術的に進んだスポーツカーの 1つだった。
アストンマーティンの最新バージョンの6.0リッターV12エンジンを搭載し、最高出力450馬力、最高速度299km/hを発揮する。
DB9に乗っていた時は、アクセルをつま先で軽く押すくらいの感覚で余裕に街乗りが出来た。
もう一つの特徴として、非常にクリープが強くブレーキをしっかり踏んでいないと進んでしまう恐れがある。
ダウンタウンの松本 人志も過去DB9に乗っており、とりあえずいつでも前に進みたがる車と言っていた。
そして良く話題になるのだが、DB9は全くブレーキが効かない。
車間距離をしっかり取っていないとそのまま前車に突っ込むレベルである。
ディスクローターは放熱性も悪い通常のローターであり、グラントゥーリズモのようなドリルドローターではない為にブレーキ関係の維持費は安いが代わりに安全面での性能は劣る。
もし購入を検討しているの方がいたら、是非1度試乗していただきブレーキを確認してみて欲しい。
そして運転していてシャシーの良さに気づく。
フレームはアルミニウムで作られ、
ボディパネルはアストンマーティンの新しいゲイドン施設の高度なボディ組立エリアで接着剤を使用して取り付けられる。
DB9 Production at Gaydon « Aston Martins.com
この接着剤はアストンマーティンで唯一のロボットによって塗布されている。
コンピューター制御の熱風硬化によって、最高水準の精度と接合剛性が非常に高いため、揺れやガタつきない。
接着は耐久性にも優れており、クラックが発生しやすい溶接よりも応力分散が優れているという。
実際に乗っていてもパネルのカタカタ音は殆どせずに、レザーのギシギシ音がメーター付近から鳴っていたくらいだった。
そしてDB9のリコール数はほぼ2桁(9回)主な原因となっていたのはやはり電気系統だった。
私の2004年式のDB9はもちろんこの時期に当てはまり、
電気系統の信頼性は本当に悪かった。オルタネーター問題にはどうすれば直るのかと頭を抱えた。
このDB9だか2006年になってからクレームの案件となっていた電気系統が改良され、
フロントシートを再設計し、オプションリストにスポーツパックが追加された。
2009 年にはさらなる改良が行われ、DB9 の出力が向上した。
(450馬力から 470馬力に)
乗り心地が向上したビルシュタイン ダンパーが取り付けらたらしいが、これは初めて知った。
再設計されたセンター コンソールはクリスタルキーとなっていて私の憧れのキーである。
DB9の最大の魅力はやはりインテリアでもなくエンジンでもなく私はエクステリアだと思っている。
伝統的なアストンマーティンのスポーツカーを現代的に解釈したものであると。
デザインディレクターのヘンリック・フィスカーは、
「アストンマーティンはエッジの効いた車ではなく、
鋭いボディや目立った外観を持たない。
ボディワークはエレガントで緩やかな曲線を描いており、
筋肉が引き締まっている。
つまり最高に健康な人間のようだ。
しかし、それは体が大きくて調和が取れていない
ボディビルダーのようなものではない。」
と述べている。
DB9はネオクラシックカーとしての位置付けになり2023年の現在と比べ、
ハイテク技術が取り込まれているLEDヘッドライトや液晶メーター、フロントアシスト/リヤトラフィックアラートなどの安全装備、フルオートエアコン等は何一つ搭載されていない。
しかし販売して20年が経つ車と現代の車と比べてみると絶対的に負けない要素がある。
それはDB9には超越した美を感じ取れる事だ。
高校生の頃からずっと
「美しい、綺麗だな」
と思っている事であり、今後も一切揺るぐ事はない。(2010~12年式 DBSも同様に)
2005 アストンマーティン ヴァンテージ
2004年のDB9に続いて、2005年にVH プラットフォームを使用する 2番目の車が登場した。年間 3000 台に近いペースで製造され、約70% が英国国外に生産された。
V8 ヴァンテージはベイビーアストンと呼ばれポルシェ911やアウディR8、BMW Mシリーズ辺りがライバルだろうか?
ヴァンテージはつい5年前の2018年まで製造されていて、販売から10年以上同じ見た目で引っ張っているのはグラントゥーリズモと同じだが、同時にそれ程までに仕上がったデザインとも思える。
大きさはA90型のスープラと全高が違うだけでほぼ一緒である。
V8ヴァンテージは469~1,180万円の間で中古車として販売されている。
ファーストアストンしては手に入れやすい価格帯まで落ちていて、年式も2010年式と中期くらいのモデルが底値で買える。
そんなV8ヴァンテージは、
ウォリックシャー州ゲイドンにある専用設計の工場で製造され、生産が続いていたヴァンテージは、押し出し合金と複合材のボディに、優れたジャガー由来の 4.3 リッター V8 エンジンとマニュアルまたはセミオートマの 6 速「スポーツシフト」を組み合わせている。
このV8エンジンは380馬力となっている。
日本の走行環境下では全く問題ない数値だが欧州のスポーツカーとしてはやや非力にも思える。そろそろ納車も始まってくるゴルフ8 R 20周年は333馬力もあるのでヴァンテージの馬力に迫ってきているのも面白い。
そしてV8ヴァンテージは、驚くほど信頼性が高いという。
この事実は日本でも海外でもレンタカーとしてV8ヴァンテージが採用される事が多いのが理由として裏付けられる。
100,000kmを超えるヴァンテージのオーナーさんと知り合ったのだが、50,000~60,000kmの時に中古購入し、100,000kmに到達するまで大きな故障はなく、ブローバイバルブやO2センサー交換で2~3回程故障し、計50万円くらいの整備があったのみ。
基本的には消耗品の交換だけだけで今も快適に走ってくれてるという。
(整備代が他の車にしては高いと思うが、15年オーバー超えアストンを維持していく上で50万円で済んでいるは圧倒的に安い)
以前この100,000kmを超える記念の時に横乗りをさせてもらった。
以前ヴァンテージを運転した時は、スポーツカーらしく固い乗り心地の印象だった。
今回の乗せてもらった車両は、若干のサス抜けを感じられたが過走行にも関わらずその乗り心地は殆ど変わっていなかった。
ヤフオクやカババでは100,000kmオーバーや80,000km近くのDB9も出品されていた。
そしてあと数年でDB9、ヴァンテージと共に販売から20周年を迎える。
未だに現役で走っている姿を見れるのは嬉しいが、また私もネオクラシックアストンのハンドルを握って故障の恐怖に怯えながらドライブをしてみたい。
今回もまた長くなってしまったので、次回ラピードやヴァンキッシュを紹介していく。