総額50億円超のブガッティ展!!57SCアトランティック・幻の18/3 ヴェイロン・チェントディエチを見てきた。
ブガッティ。

ブガッティと聞くと、多くの人は「とんでもなく速くて、人生の中で無縁の車」と想像するかもしれない。
私もその中の1人ではあるが、
でもアウトシュタットで実車を前にすると、それだけでは少し足りない気がした。ここに並んでいるのは、速さというより、執念に近いものだった。
アウトシュタットは、Volkswagen本社の真横に広がる、いわばグループのテーマパークだ。ポルシェやアウディのパビリオンが並ぶ華やかな施設になるが、ブガッティの展示スペースだけは、空気が少し違う。観光地のきらびやかさより、もっと張りつめた、博物館的な静けさがある。
ここにある車は、ただの高級車ではない。
技術・芸術・狂気の集合体。
アトランティックの息を吞むような美しい戦前の美意識から、世界初のW18を積んだコンセプト、1500馬力を超えるW16ハイパーカー、そしてディーボやチェントディエイチのような限定モデルまで。時代をまたいで、ブガッティという一つのブランドが何を考えてきたのかを、一つの空間で眺められる。
そんな美しいブガッティをこの目で見てきた。
今回の記事では、各車を歴史・エンジン・実車で見たデザインの3つの面から、1台ずつ振り返っていく。スペックを並べるだけでは伝わらない、実車の前に立ったときの感覚を、できるだけそのまま書いてみたいと思う。
訪問地:アウトシュタット ツァイトハウス(ZeitHaus)
所在地:ドイツ・ヴォルフスブルク(Volkswagen本社に隣接)
内容:Volkswagen Group時代のBugattiの発展、コンセプトカー、限定車、記録車、戦前のType 57 SC Atlanticなど
※展示内容・展示車両・配置は訪問時点のもので、変更される可能性がある。
今回見た狂気のブガッティ
細かい解説の前に、まず全体像から。今回は各車の参考価格(相場観)も添えておいた。気になる一台を見つけてから読み進めてもらうのが早いと思う。
| 車両 | ひとことでいう魅力 |
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Type 57 SC Atlantic
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ブガッティの美意識を象徴する、戦前アールデコの頂点
参考価格:オリジナル現存車は約150億円超の評価 ※展示車はリコンストラクション
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EB118
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ブガッティ復活を告げた、W18グランドツアラー
参考価格:非売品(1点もののコンセプトカー)
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EB 18/4 Veyron Concept
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量産ヴェイロンへつながる、現代ブガッティの原型
参考価格:非売品(1点もののコンセプトカー)
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18/3 Veyron by Walter de Silva
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採用されなかった、もう一つのヴェイロンの姿
参考価格:非売品(1点もののデザインモデル)
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Veyron 16.4 Grand Sport Vitesse ×2
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1200馬力、当時世界最速のオープン。白×黒と青カーボン×黒の2台
参考価格:中古相場 約3〜5億円(新車時は円換算で約3.1億円)
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Chiron Super Sport(WRC 300+)
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W16時代の到達点。量産車世界記録をまとうシロン スーパースポーツ
参考価格:顧客向け30台は新車時約6.4億円、中古6〜8億円級 ※展示の記録車は非売品
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Divo
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最高速よりコーナリングに振った、異端のブガッティ
参考価格:相場 約12.9〜23.9億円
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Centodieci
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EB110への敬意を、現代のW16で再構築したチェントディエチ
参考価格:相場 約18.4〜27.6億円
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ブランド原点、世界最高の美術品としての車
カタログの上では、ブガッティは数字の塊だ。数憶円、1000馬力超、400km/h超、16気筒、4ターボ。並べるだけで日頃の車が全ておもちゃに見えてくる。
そしてその実車の前に立つと、不思議とその数字はいったん頭から消える。
代わりに目に入ってくるのは、手で叩き出されたような面の張り、リベットの一粒一粒、空気を逃がすための開口部の角度、そして時代を超えて受け継がれる「センターライン」だ。
1930年代のAtlanticの背骨から、現代のChironのCラインまで、ブガッティはずっと同じところに執着している。つまりこの展示を貫いているのは「速さ」ではなく、速さも美しさも限定性も、全部を過剰なくらい真面目にやってしまう執念のほうだと私は思う。
この章はアトランティック1台だけ。だが、これがなければ後のすべてのブガッティが違って見える。速さの数字がまだ意味を持たなかった時代に、ブガッティは「美しさ」で人を黙らせていた。現代まで続く“センターライン”は、ここから始まる。
Bugatti Type 57 SC Atlantic

タイプ57 SC アトランティックは、1930年代のブガッティを代表する名車であり、創業者の息子 Jean Bugatti の美意識を象徴する存在だ。数多くのタイプ57の中でも、アトランティックは別格とされる。製造されたのはわずか4台で、そのうち現存するのは3台といわれている。「Atlantic」という名は、1936年に大西洋横断飛行へ挑んで命を落とした飛行家 Jean Mermoz への敬意から付けられたとされた。

スタイルのルーツは、行方知れずになった1934年の タイプ57 C エアロライトにある。あの特徴的な中央の継ぎ目も、そこから受け継がれたものだ。

搭載されるのは3.3Lの直列8気筒。「SC」はSupercharged、つまりスーパーチャージャー付きを意味し、過給によっておよそ200馬力を発揮、最高速は200km/hを超えたといわれる。現代のW16の1500馬力という数字と並べれば、もちろん見劣りする。
しかし、その比べ方は正しくない。
馬車がまだ普通に道を走っていた時代に200km/hというのは、ほとんど異常な数字だった。Atlアトランティックのエンジンは、性能を「現代の物差し」ではなく「その時代の中での突出」として捉えると、本当の凄みが見えてくる。


最大の見どころは、やはりセンターリッジだ。

ボンネットの継ぎ目から始まり、ルーフを越えてリアまで一本で貫く、背骨のようなライン。
手作業で叩き出された金属板が、リベットでびっしりと留められている。機能というより、もはや工芸の領域だ。アールデコ的な曲線、低く落ちた屋根、流れるようなフェンダー。


全長は4.6mほどしかないのに、ボンネットだけが異様に長い。


この「中央を貫く線」という思想は、現代のブガッティ、さらには新型トゥールビヨンの背骨にまで受け継がれている。美術品のように静かでありながら、機械としての緊張感もちゃんとある。そのギャップが、この車の不思議な魅力だと思う。本物のタイプ57SCをベースに再現されたこのアトランティックは正にブガッティの「美術品」であった。

| 展示区分 | リコンストラクション(ZeitHaus公式説明) |
|---|---|
| 成り立ち | 本物のType 57 SCをベースに、アトランティックボディを精巧に再現(多くのオリジナルパーツを使用)とされる |
| エンジン | 直列8気筒 3.3L+スーパーチャージャー(約200PS) |
| オリジナル | 生産4台/現存3台といわれる |
| 確認事項 | 展示プレートの「リコンストラクション/再現ボディ」の表記 |
| 参考価格 |
オリジナル現存車は1台1億ドル(約150億円)超と評価される。 2010年には約3,000万ドル超の売買例も。 ※展示車(リコンストラクション)自体の価格ではない |
| 見どころ | リベットの継ぎ目を間近で。手で叩き出した板を留めている証で、写真より生々しい |
フォルクスワーゲングループ時代、復活への試行錯誤
VW傘下で「どんなブガッティを甦らせるか」を探した時期の3台。優雅なGT(EB118)から、量産Veyronの輪郭(EB 18/4)、そして採用されなかったもう一つの案(de Silva)まで。完成形だけを見ると分からない、答えにたどり着く前の試行錯誤がここにある。
Bugatti EB118

EB118は、フォルクスワーゲングループがブガッティを復活させていく過程で最初に生まれたコンセプトカーになる。デザインはジウジアーロ率いるイタルデザインが手がけ、1998年のパリモーターショーで発表された。
後にジウジアーロ自身が「自分の最高傑作」と呼んだという話も残っている。
面白いのは、いきなりミッドシップのハイパーカーから始めなかったこと。
まずは大排気量・フロントエンジンのグランドツアラーとして、ブガッティを再定義しようとした。その後、四ドア版のEB218、ミッドシップのEB 18/3 Chiron へと展開し、量産化の準備まで進んだものの、最終的にChironをベースとしたスポーツカー路線に集中するため、EB118は市販化されないまま終わっている。

積まれているのは6.3LのW18自然吸気、出力はおよそ555馬力。3つの気筒列(バンク)に6気筒ずつ、合計18気筒という、自動車では前例のない構成になっている。
これが、のちのW16へとつながる前段階になる。

正直なところ、馬力の数字そのものより、「世界初の18気筒乗用車エンジンを、まず作ってしまった」という事実のほうに凄みがある。Piëch時代のブガッティの発想の大きさ…というか、ある種の狂気が、このW18という構成そのものに表れていると思う。

巨大なW18を収めるため、ボンネットは長く、中央が盛り上がり、そこに背骨のようなリブが通っている。アトランティックを思わせるセンターラインと、ブガッティ伝統の馬蹄形グリル。現代的というより、クラシックなブガッティを現代のGTに翻訳したような佇まいだ。

1931年のタイプ50 やアトランティックへのオマージュが、はっきりと感じ取れる。量産されなかったからこそ、ここには復活初期の「迷いと夢」がそのまま残っている。後のヴェイロンやCシロンのソリッドな塊感と比べると、EB118はまだ優雅さを前面に出している。この差を知ってから見ると、ぐっと味わい深い。

| 発表 | 1998年 パリモーターショー |
|---|---|
| デザイン | ジョルジェット・ジウジアーロ/イタルデザイン |
| エンジン | 6.3L W18 自然吸気(約555馬力)/4輪駆動 |
| 位置づけ | フォルクスワーゲン傘下ブガッティ初のコンセプトカー。市販化されず |
| 参考価格 | 非売品。1点もののコンセプトカーで、市場価格は存在しない |
| 見どころ | ボンネット中央の膨らみとリブ。W18が“入りきらない”ことが、そのまま造形になっている |
量産ヴェイロンへ向かう、2つの案
ここから、量産ヴェイロンの直前にあたる2台が続く。社内デザインで“正解”に近づいたEB 18/4と、それと競って採用されなかったde Silva案。採用された案と、されなかった案を並べて見られるのは、かなり貴重だった。
Bugatti EB 18/4 Veyron Concept

EB 18/4 Veyron は、1999年10月の東京モーターショーで発表されたコンセプトカーだ。量産Vヴェイロンにかなり近い姿を持つ、重要な一台といっていい。それまでのジウジアーロ案と違い、この車はVolkswagen社内で、デザイン総責任者 Hartmut Warkuß (ハルトムート・ワークス)の指揮のもとにまとめられた。エクステリアを手がけたのは、当時まだ若手だった Jozef Kabaň(ジョセフ・カバン)。のちに量産ヴェイロンのデザインで名を知られることになる人物だ。「Veyron」という名は、1939年のル・マンを制したブガッティのワークスドライバー Pierre Veyron(ピエール・ヴェイロン) に由来する。Ferdinand Piëch(フェルディナント・ピエヒ)が掲げた「1001馬力・400km/h超」という、とんでもない目標へ向かう車でもあった。
発表当初は、これまでのコンセプト同様にW18を搭載していた。
だが、「1000馬力超を確実に絞り出すこと」、そして自然吸気W18の発熱や複雑さを管理することが、想像以上に難しかった。
その結果、2000年までに8.0Lのクワッドターボ W16 へと切り替える決断に至る。

つまりここで語るべきは、エンジン単体のスペックよりも、「どうすれば1000馬力級を現実にできるのか」という技術的な試行錯誤そのものだ。
W18からW16への変更は、冷却・信頼性・過給との相性まで考え抜いた末の“現実解”だった、と公式には説明されている。

量産ヴェイロンに近い、丸みを帯びたミッドシップのシルエット。

馬蹄形グリルに、サイドのCラインへとつながる空気の流れ。EB118よりも明確に、ハイパーカーの方向へ振られているのが分かる。


「キャビン(客室)を前方」に配置するキャブフォワード気味の塊感も、もうほとんどヴェイロンそのものだ。

ここでようやく、我々が知るヴェイロンの輪郭が立ち上がってくる。EB118の優雅なGTから、わずか1年でここまで来ている。その変化のスピードに、規制が多い現代と比べてしまうと驚かざるにはいられない。

| 発表 | 1999年10月 東京モーターショー |
|---|---|
| デザイン | 社内(ヴァルクス指揮/エクステリアはカバン) |
| エンジン | 発表時はW18 → 量産でW16 クワッドターボへ転換 |
| 名の由来 | ピエール・ヴェイロン(1939年ル・マン優勝) |
| 参考価格 | 非売品。量産ヴェイロンの母体となった1点もので、市場価格は存在しない |
| 見どころ | 量産ヴェイロンとの細部の違い(ライト・テール・ホイール)。5速MTだった逸話も思い出しながら |
Bugatti 18/3 Veyron(1999)by Walter de Silva

これは、量産ヴェイロンに至る前のデザイン検討モデル、その名も「18/3 Veyron」だ。展示車のナンバープレートには「18/3 EB 67」とある。

EBはEttore Bugatti(エットーレ・ブガッティ)の頭文字、67はブガッティの故郷モルスハイムがあるフランス・バ=ラン県の県番号で、EB 18/4 Veyronが「18/4 EB 67」を付けていたのと同じ流儀だ。面白いのは、この「18/3」という番号を1999年フランクフルトで公開されたジウジアーロのEB 18/3 シロンと共有していること。
つまり同じ「第3スタディ=ミッドシップ化」のフェーズに対して、直線を効かせたジウジアーロの公開案と、当時SEATのデザイン責任者だった Walter de Silva(ワルター・デ・シルヴァ)による正反対の非公開案、という2つの答えが存在していたわけだ。デ・シルヴァは、VWのデザイン総責任者ハルトムート・ワークスの依頼でこの案を制作したが、最終的に採用されたのは ジョセフ・カバンのライン(EB 18/4へつながる案)。
このモデルは長く非公開のままで、2009年にイタリアの自動車誌が写真を公開するまで、その存在はほとんど知られていなかった。
そして実車(1:1モデル)の一般公開は、今回のアウトシュタット展示が初とされる。つまり私は、四半世紀のあいだ隠されていた幻の車を見てきたことになる。
この車は、実走を前提とした量産車ではなく、内装まで作り込まれた完全な1:1のデザインモックアップ(走行用の機構は持たない)とされている。だから、エンジンスペックを断定的に語るのは避けたい。

構想としては、同じ1999年の EB 18/3 Chiron と同様にW18を念頭に置いていたと伝えられる。
ただ、この車で本当に見るべきは搭載エンジンではなく、「ヴェイロンがW18構想からW16量産へ向かっていく過程に、こういうもう一つのデザインの可能性もあった」という事実のほうだと思う。

量産ヴェイロンとは、明らかに表情が違う。エッジをほとんど持たない、全身が曲面でできたようなブルーのボディ。

公式の説明によれば、そのラインやディテールは昆虫にインスパイアされたものだという。

丸いヘッドライトに、透明カバーの中に丸を重ねたテールランプ。ドアはランボルギーニを思わせる跳ね上げ式(シザードア)で、ホイールのセンターには「EB」の文字が刻まれている。

そして見逃せないのが、車体を前後に貫くセンターライン…これはタイプ57 SC アトランティックへの明確なオマージュだ。それでいて、サイドには後のヴェイロン/シロン/トゥールビヨンへと続くCラインの原型がすでに見て取れる。リア(エンジンフードや中央の大きな1本出しマフラー)は、量産ヴェイロンに影響を与えたとも言われている。

もしこちらの案が採用されていたら、ヴェイロンの印象はかなり違っていたかもしれない。
だからこの車は、単なる「没案」として片づけたくない。完成形にたどり着くために必要だった、重要な試行錯誤の一つとして見るべきだと思う。
| 名称 | ブガッティ 18/3 ヴェイロン(展示車プレートは「18/3 EB 67」) |
|---|---|
| 種別 | 1:1デザインモックアップ(走行機構なし)とされる |
| 制作 | ワルター・デ・シルヴァ(当時セアト)/ヴァルクスの依頼 |
| 18/3の意味 | 第3スタディの番号。公開されたEB 18/3 シロン(ジウジアーロ)とは別車両 |
| 結果 | ヴァルクス/カバン案(EB 18/4系)に敗れ不採用 |
| 公開 | 2009年に写真のみ公開。実車は今回のアウトシュタットが初の一般公開とされる |
| 参考価格 | 非売品。四半世紀非公開だった1点もののデザインモデルで、値段の付けようがない |
| 見どころ | 隣の量産系ヴェイロン(EB 18/4)と見比べ。採用/不採用の分岐が、立体のまま見える |
量産ヴェイロン、夢がついに現実になる
コンセプトの試行錯誤を経て、2005年、VeyronはついにW16・1001馬力・最高速400km/h超という、それまで誰も到達していなかった現実として世に出る。
アウトシュタットに並んでいたのは、そのオープン版の頂点にあたるVeyron 16.4 Grand Sport Vitesseが2台。白い個体はオープンの状態で、青×露出カーボンの個体はルーフを閉じた状態で展示されていた。コンセプトカーで見た「夢」が、ここで完全に現実の量産車になっている。
Bugatti Veyron 16.4 Grand Sport Vitesse


ヴェイロン16.4は2005年、W16・1001馬力・最高速400km/h超という、コンセプト時代の「夢」をそのまま現実にして登場した。
2008年には初のオープン版であるGrand Sportが加わり、そして2012年、そのオープンボディにSuper Sport由来の強化エンジンを組み合わせた頂点、Grand Sport Vitesseが登場する。

ロードスターの2台は、いずれもこのVitesse(ヴィテス)。Veyronという物語の、いわば最終章にあたるモデルだ。展示車のうち1台(2012年式)は、シートに使い込まれた跡が残る実走個体だといい、ピカピカの保存車とは違う「ちゃんと使われてきたヴェイロン」の説得力がある。
8.0LのW16クワッドターボは、標準ヴェイロンの1001馬力から1200馬力/1500Nmまで引き上げられている。

2013年4月には平均408.84km/hを記録し、「世界最速の量産ロードスター」となった。屋根のないボディでこの速度域に到達し、なお破綻しない剛性と空力を確保している。その事実そのものが、もはや常識の外にある。Vitesse(ヴィテス)はフランス語で「速さ」。名前がそのまま中身になっているモデルだ。
今回の展示の面白さは、同じVitesseが「開」と「閉」で並んでいることだ。白い個体はオープンの状態で、キャビン周りの開放感と、屋根がなくても崩れないプロポーションを見せる。

一方の青い個体は、ブルーの露出カーボンをまとってルーフを閉じた状態。カーボンの織り目が光の角度で表情を変える様子が楽しめる。
馬蹄形グリル、サイドのCライン、四灯テールというヴェイロンの記号は共通なのに、屋根と色でここまで印象が変わる。1台では分からない「ヴェイロンの二面性」が、ペア展示だからこそ見えてくる。

| 展示 | 2台(白=オープン/青×露出カーボン=クローズ) |
|---|---|
| エンジン | 8.0L W16 クワッドターボ(1200馬力/1500Nm) |
| 記録 | 2013年に平均408.84km/h(当時、世界最速の量産ロードスター) |
| 系譜 | ヴェイロン(2005)→ グランドスポーツ(2008・初のオープン)→ ヴィテス(2012・頂点) |
| 展示車 | うち1台(2012年式)は使用感の残る実走個体とされる |
| 参考価格 | 新車時は約3.1億円(税抜)とされる。近年のオークションでは約3.5〜5.9億円、国内感覚では3〜6億円前後 |
| 見どころ | 同じヴィテッセの「開」と「閉」を見比べられる、珍しいペア展示 |
W16時代の頂点
ヴェイロンで開いたW16の時代が、シロンで頂点に達する。その中でも高速性能を突き詰めたのがSuper Sportだ。1600馬力という数字よりも、400km/h超で破綻しないために全身がカーボンで整えられている、という事実のほうが凄い。
Bugatti Chiron Super Sport 300+

シロンSuper Sport は、ヴェイロンの後継であるシロンの中でも、高速性能をさらに突き詰めたモデルだ。W16時代の集大成と言っていい存在で、巨大な開口部とロングテールをまとった姿は、まさに「速度のための車」という佇まいをしている。アウトシュタットの展示では、この一台は「Chiron WRC 300+(World Record Car / 2019)」として紹介されていた。

WRCは World Record Car、つまり量産車世界記録車を意味する。300+は、2019年8月に Andy Wallace のドライブで490.484km/h(時速300マイル超)を記録し、量産車として初めて300mphの壁を破った系統で、生産は30台とされる。
心臓は8.0LのW16クワッドターボ。標準のシロンが1500馬力なのに対し、Super Sport 300+では1600馬力級まで引き上げられている。


ただ、この車の本当の凄さは馬力の数字ではない。
冷却・空力・安定性まで含めた、総合的な技術の塊だというところにある。400km/hを超える速度域で、車がきちんと破綻せずに走り切れること…
それ自体がとんでもない技術になる。馬力だけを取り出して語ると、むしろこの車の価値を見誤る気がする。


最大の特徴は、通常のシロンより約25cmも伸びたロングテールだ。これは見た目のためではなく、高速域で空気の流れを長く保ち、失速(stall)を抑えるための形。

フェンダー上に並ぶ9つのスリットは、ホイールハウス内の空気を逃がす機能であると同時に、1990年代のEB110へのオマージュにもなっている。「丸い高級車」ではなく、速度のために全身を整えた形。

近くで見ると、ボディの大きさと、その表面に施された緻密な空力処理とのギャップが、はっきりと伝わってくる。大きいのに、無駄がない。そのバランスがすごい。

数十億の限定車として
同じW16から、まったく違う物語を引き出した2台。最高速を捨ててコーナリングに振ったディーボと、EB110への敬意を現代に再構築したチェントディエイチ。速さの数字ではなく、「何のために作られたか」で見るべき車だ。
Bugatti Divo

ディーボは、シロンをベースにしながら、最高速ではなくコーナリング性能に振った限定モデルだ。2018年8月、アメリカの The Quail で発表された。生産はわずか40台で、すべて既存のシロンオーナー向けだったとされる。

名前は、フランス人レーシングドライバー Albert Divo(アルベール・ディーヴォ) に由来する。彼は1920年代にブガッティで走り、タルガ・フローリオを2度制した人物だ。ブガッティとしては珍しく、サーキットやハンドリングの方向へ明確に舵を切ったモデルで、「21世紀のブガッティ初のコーチビルド・ハイパースポーツ」とも位置づけられている。

デザインのインスピレーション源には、あのタイプ57 SC アトランティックや Vision Gran Turismo の名も挙がっている。そしてアウトシュタットの展示車は、そのDivoの記念すべき1号プロトタイプ(2019)。量産40台の前に作られた、開発の原点にあたる一台だ。
搭載エンジンは8.0LのW16クワッドターボ。出力はシロンと同じく1500馬力級で、ここがポイントだ。ディーボは馬力を上げることが目的ではない。

本質は、軽量化・空力・ダウンフォース・ハンドリングのほうにある。シロンに対してダウンフォースは約90kg増え、Nardòのテストコースをノーマルのシロンより8秒も速く周回したという。最高速はむしろ380km/hにあえて抑えられていて(シロンの420km/hより低い)、これは「曲がるために最高速を捨てた」ことの表れだ。速さの種類が、「最高速」から「曲がる速さ」へと、はっきり変わっている。

シロンよりエッジが強く、開口部も大きい。

フロントの表情は、ブガッティとしてはかなり攻撃的だ。見どころは、大型のリアウイング、リアライト、そしてディフューザー周り。


特にリアライトは、片側45枚ものLEDプレートを組み合わせた立体的な構成で、その製造はブガッティ自身が音を上げかけたと語られるほど複雑だったという。


ブガッティらしい上品さを残しつつも、どこかレースカーのような緊張感をまとっている。
「ブガッティなのに、どこかレースカーみたいだ」
実車の前に立つと、その違和感がいい意味で効いてくる。同じW16なのに、シロンとはまるで性格が違って見えるのが面白い。

| 発表 | 2018年 ザ・クエイル(米国) |
|---|---|
| エンジン | 8.0L W16(1500PS級・標準シロン同等) |
| 本質 | 軽量化・空力・ダウンフォース(シロン比 約+90kg DF) |
| 最高速 | あえて380km/hに制限 |
| 生産/名の由来 | 40台/アルベール・ディーヴォ(タルガ・フローリオ2勝) |
| 展示車 | 1号プロトタイプ(No.1/2019) |
| 参考価格 |
新車時は約9.2億円(税抜)。2025年には約15.8億円の落札例があり、相場は約12.9〜23.9億円とされる。 ※展示のプロトタイプは非売品 |
| 見どころ | 真正面から見る攻撃的な面構成、大型リアウイング、片側45枚LEDのリアライト |
Bugatti Centodieci


チェントディエイチは、ブガッティEB110 へのオマージュとして作られた限定モデルだ。
サッカー選手で世界的有名なクリスティアーノ・ロナウドが乗っている姿もみられ、ブガッティというブランドの110周年を記念する重要な一台でもある。

2019年8月、これも The Quail で発表された。生産はわずか10台。車名の「Centodieci」は、イタリア語で「110」を意味する。EB110は、1990年代のRomano Artioli(ロマノ・アルティオーリ)時代のブガッティ復活を象徴する存在だった。

チェントディエチは、その記憶を現代のW16で再構築し、アルティオーリ時代のEB110と、Volkswagen Group時代のブガッティとを橋渡しする役割を担っている。世代をまたいで「ブランドの記憶」をつなぐ車、という見方をすると、ぐっと深く味わえる。なお、アウトシュタットの展示車は2021年のプロトタイプとされ、量産10台とはまた別の、開発段階の一台だ。

エンジンは8.0LのW16クワッドターボ、1600馬力。シロンに対して約20kg軽量化されている。シロンの最新技術をそのまま使いながら、見た目のモチーフは1990年代のEB110を強く反映している。

つまりチェントディエチは、中身は現代ブガッティ、見た目は1990年代ブガッティを現代に解釈したという、二重構造のハイパーカーになる。最新のW16を積みながら、その上に過去への敬意を被せている。このねじれ方が、チェントディエチという車の一番面白いところだと思う。


EB110を思わせる横長のフロントと、薄いライト。そしてサイドには、丸いエアインテークが5つ並ぶ(ダイヤモンドを思わせる配置)。


リアは水平基調で、8連のテールランプ、さらにはガラス製のエンジンフードまで備える。全体にChironより直線的で、ウェッジ(くさび)形のシルエットは、どこか90年代的だ。

ただのレトロ回帰ではない。EB110という車が持っていた「記号」を、現代のハイパーカーの文法で翻訳し直している。


この再解釈を指揮したのは、19年にわたってブガッティのデザインを率いた Achim Anscheidt(アヒム・アンシャイト)だ。だからEB110を知っている人ほど、細部のあちこちでニヤリとできる。逆に知らないと、その仕掛けの半分くらいは見えないままかもしれない。そういう、ちょっと意地悪なくらい“分かる人向け”の車だ。そしても数十億規模の車に囲われる経験がなく、このブガッティ展示ブースは私が今までの訪れてきた中でも最も異空間であった。

| 発表 | 2019年 ザ・クエイル(ブランド110周年) |
|---|---|
| エンジン | 8.0L W16(1600PS級・シロン比 約-20kg) |
| モチーフ | EB110(5連丸インテーク/ウェッジ形/薄型ライト) |
| 生産/名の意味 | 10台/イタリア語で「110」 |
| 展示車 | プロトタイプ(2021) |
| 参考価格 |
新車時は約14.7億円(税抜)。近年は約18.4億〜27.6億円級の評価が付く。 ※展示のプロトタイプは非売品 |
| 見どころ | サイドの5連インテークを斜め後ろから。EB110を知る人ほど刺さる |
まとめ
- アトランティックは、ブガッティの美意識の原点。速さより先に「美しさ」で語られた時代の車で、現代まで続く造形の思想がここにある
- EB118やヴェイロン コンセプト(デ・シルヴァ案を含む)は、フォルクスワーゲン・グループがブガッティをどう復活させようとしたのかが見える。いくつもの案を経て、答えにたどり着いたことが分かる
- そして2台のヴェイロン 16.4 グランドスポーツ ヴィテッセは、その「答え」が現実の量産車になった姿。屋根を開けても400km/h級という、コンセプトの夢がそのまま形になっている
- シロン スーパースポーツ(WRC 300+)は、W16時代の技術的な到達点。馬力だけでなく、400km/h超を成立させる総合技術の塊で、量産車世界記録までまとう
- ディーヴォとチェントディエチは、速さだけではない「限定車としての物語」を持つ。同じW16から、まったく違う方向の車が生まれている
- アウトシュタットのブガッティブースは、単なる高額車の展示ではなく、ブランドの思想の変遷を一気に見られる場所だった
- 実車で見ると、写真では分からない造形の厚み、面の張り、空気の通り道が見えてくる。これは現地でしか味わえない
ブガッティは、速い車を作っているだけのブランドではない。美しさ、技術、狂気、そして過去への敬意。その全部を、少し過剰なくらい真面目に形にしてしまうブランドなのだと思う。
アトランティックのような戦前の美意識から、W18コンセプトの試行錯誤、夢が現実になった量産ヴェイロン、W16ハイパーカーの到達点、そしてディーヴォやチェントディエチのような限定車まで。一台ずつを、歴史やエンジンの音、実車で見たデザインという物差しで眺めると、まるで違う表情が立ち上がってくる。
車好きなら、「フォルクスワーゲン本社のテーマ施設」という枠を超えて、一度は見に行く価値がある場所だと思う。横から、斜め前から、細部まで自分の目で見て楽しめること自体が、車趣味の大事な時間だ。

