混ぜるな危険!!!輸入車のブレーキフルードは純正品を使うこと!
中古車店選びは慎重に…
先日の事だが衝撃の出来事があった。
車検2年付きの中古車(フォルクスワーゲン)を半年前に購入したお客様が来店した。
お客様から、
「フォルクスワーゲンのブレーキは効きが甘いんですか?」
と、ご依頼をいただいた。
最初は「どういう事だ?」と困惑していたが、とりあえず問診の危険性が高いのでお客様の車を預かるすることにした。
車はゴルフ6 ヴァリアントになる。
ゴルフ4やNEW Beetleといった車種でブレーキの効きが甘いと言われると、
ある程度は理解出来るのだがゴルフ6となると話が変わってくる。
ゴルフ6は初期型でも2009年くらいの年式となり、ブレーキ技術は今のゴルフ8や7.5と比べても全く遜色ない。
お客様は通勤で片道40km程の通勤を週に4~5回していて、いつも残り5km付近になるとブレーキの効きが甘くなってくるという。
という事は「ブレーキを使い続けた事による熱」が原因かもしれないと予想がついた。
自分自身でのセルフチェックも必要だ
早速車両を診断していく。
エンジン周りやブレーキバキュームシステムには問題が無さそうだ。
ゴルフ6も10年以上経つ車両が殆どになるので、経年劣化でブレーキバキュームパイプ等にヒビが入りやすくなる。
パイプからエアを吸ってしまうと、エンジンバランスが崩れて走行困難になるので気が向いたら自身の車のバキュームパイプをチェックして欲しい。
このセルフチェックに加えてもう一つブレーキシステムをチェックする方法がある。
先ずは動画を見ていただきたい。
①運転席に座り、エンジンを掛けていない状態でブレーキペダルを数回踏んでいく。
この時に徐々にペダルが固くなり、ブレーキペダルが上に上がってくる事を確認する。
(この時点でブレーキペダルが沈んでいく場合はブレーキフルードが漏れている可能性がある)
②固くなったブレーキペダルを再度踏んだまま、いつも通りにエンジンを掛ける。
ブレーキペダルが下に沈み込む場合は異常はない。
ブレーキペダルが沈み込まい場合はブレーキのマスターシリンダー不具合の可能性がある
(フォルクスワーゲンでブレーキマスターシリンダーが故障したのは今まで見た事ない。またエンジンが掛からないという症状になったらブレーキの踏み込みが甘い可能性がある。)
預かっているゴルフ6はバキュームパイプに異常は無かった。
一体どんな車検整備をしたんだ
次にマスターシリンダー周りを確認してみたが、ここで全く予想もしてなかった異変を発見した。
預かったゴルフ6はマスターシリンダーのキャップが全く閉まっていなかった。
ブレーキ関係は人命に直接繋がる部分であり、絶対に作業ミスをしてはいけない。
またブレーキフルードの主成分であるエチレングリコールが空気中の水分を吸水しやすいので、キャップが閉まっていないと空気中の水分を吸収してしまい、フルードの吸湿率があっという間に高まってしまう。
内燃機関を持つ自動車はエンジンブレーキが電気自動車より強くないので、ブレーキをかけた際のパッドとローターによる摩擦熱が非常に高温になる。
その高温になったパッドやローターがブレーキキャリパーを通じてブレーキフルードホースに熱伝導する。
熱伝導に耐えられくなったブレーキフルードは沸騰するように気泡を発生させホース内がエア噛み状態になる。
本来のブレーキ作動はブレーキフルードによる圧力より、キャリパーのピストンがパッドを押して回転するローターを両側挟み込んで初めてブレーキが作動する事になる。
エアが噛んでしまう事によって、
圧力を生み出す事が出来ずにブレーキが効かなくなってしまう。
この現象を聞いた事があるかもしれないが、
「ベーパーロック現象」という。
今回預かったゴルフ6だか安全を考慮した上で試乗は行わずに、ベーパーロック現象が起きていたと仮定し作業に移った。
ブレーキフルードキャップの締め忘れによってフルードが水分を吸収し、
沸点が低下した可能性が高いので、ブレーキフルードの交換を実施する。
本来ブレーキフルードは2年に1回、1Lでの交換だが可能な限り全てのフルードを抜く必要があるので2L交換を実施する。
交換順序はABSユニットが取り付けられている箇所から遠い順でフルード交換をしていく。
ABSユニットは助手席側に付いているので、運転席後ろの右リアブレーキから作業を始める。
ホイールを外しブリーダーキャップを外し、フルードを抜いていく。
そして題名にも書いてあるが、ここで衝撃的な光景を見た。
「ブレーキフルードが緑色に濁っている…」
通常だと有り得ない状況に困惑していた。
フォルクスワーゲンの純正ブレーキフルードは黄色であり、緑色のフルードが入っている筈がない。
ここで予想できるのはブレーキフルードを混ぜた可能性が非常に高い。
基本的にブレーキフルードは混ぜても問題ないとされてはいるが、私はオススメしない。
輸入車は日本車と比べて壊れやすく非常に繊細だからである。
輸入車といってもドイツ車だし品質が高いと考えるのはリスキーである。
フォルクスワーゲンといえど、甘く見てると突然不機嫌になるので要注意だ。
ブレーキフルードには、DOT3,DOT4,DOT5,DOT5.1といった規格がある。
フォルクスワーゲンはDOT4規格となり、
種類の主な違いは、フルードの沸点である。
DOT5だけ主成分がシリコーン系となり、それ以外はグリコール系となる。
ここで沸点にも種類があるので説明する。
・ドライ沸点(缶から開封されていない時の沸点)
・ウェット沸点(交換してから1~2年の状態と仮定しておく)
DOT3は、ドライ沸点は205℃以上、ウェット沸点は140℃以上
DOT4は、ドライ沸点が230℃以上、ウェット沸点が155℃以上
DOT5は、ドライ沸点が260℃以上、ウェット沸点が180℃以上
DOT5.1は、ドライ沸点が260℃以上、ウェット沸点が180℃以上
となり、今回預かっているゴルフ6にどの規格のブレーキフルードが入っているかは不明であった。
フォルクスワーゲンはDOT4の主成分がグリコール系なのでDOT5のシリコーン系が入っていなければ、とりあえずは問題はない。
2Lのブレーキフルード交換をしていく時は、キャリパーから1度に500mlずつ抜いての交換は行わない。
250mlを4箇所から抜いた後に、もう一度ABSユニットから遠い箇所からフルードを250ml抜いていく事で、混ざってしまったブレーキフルードをなるべく多く排出できる。
交換したブレーキと新品のブレーキを見比べてみると、より恐怖を感じる。
ここまで真っ黒になったブレーキフルードに自分の命を預けていたと思うと改めてメンテナンスの重要性を感じる。
加えてこの黒くなったフルードは水分をかなり吸収している。
車検が約1年半残っており、その間ずっと使用していたら吸水性は更に上がってしまい後々大事故になるところだった。
フルードを新品に交換後は2時間程度の試乗を行いブレーキ作動に問題なかったので車両を返却。
そしてお客様には購入した中古車店へ直ぐ連絡するように伝え、今回の作業は終了となった。
フォルクスワーゲンだけではなく、
車に乗っている全てのオーナーは今一度ボンネットを開けてブレーキフルードの状態とキャップの閉め忘れを確認してほしい。
以下ブレーキフルードの交換工賃及び部品代となる。
ブレーキフルード交換 7,500円
ブレーキフルード2L 5,600円 B 000 750 M3
合計 13,100円