ID.Buzzを2日間借りた。2,720kgが消える走りと、充電という現実
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ID.Buzzを2日間借り、約200km走った。

実車は何度も見ているが、運転席に座って自分の生活圏を走ったことはなかった。フォルクスワーゲンに携わっている身として、一度きちんと乗っておきたかった車になる。
販売店での短時間の試乗では、分からないことが多い。狭い生活道路ですれ違い、幹線道路を流し、実際に充電器へ行く。2日間そうやって使ってみて、ようやく見えてきたことを書いていきたい。
結論から書くと、ミニバンとEVの相性は想像以上に良かった。ただし価格と充電という、避けて通れない問題も同時に見えた。
試乗した車両
ID. Buzz Pro Long Wheelbase(7人乗り)
6人乗りのProは全長4,715mm、ホイールベース2,990mm、バッテリー84kWhで888万9,000円になる。今回借りたのは全長をストレッチした7人乗りの方だ。
まず圧倒されるのは全幅

ID. Buzzを一目見て思うのが、車幅の広さになる。1,985mmは2mに迫る数字で、ミニバンの中でも突出している。
| 車種 | 全幅 | 全長 | 全高 |
|---|---|---|---|
| ID. Buzz(LWB) | 1,985 | 4,965 | 1,925 |
| メルセデス Vクラス | 1,928 | 5,140 | 1,880 |
| VW シャラン | 1,910 | 4,855 | 1,765 |
| トヨタ アルファード | 1,850 | 4,995 | 1,935 |
※単位はmm。Vクラスはロング、シャランは日本仕様の数値になる。
シャランより75mm、アルファードより135mm広い。全高1,925mm、全長4,965mmという5mクラスの寸法と合わさって、存在感は半端ではない。

最初はサイズ感が掴めず運転しづらかったが、これは徐々に慣れた。国道での走行は特に気にならない。
ただし狭い生活道路では対向車が気になった。2日間乗っても、ここだけは最後まで気を遣い続けた部分になる。
機械式駐車場は全幅1,850mm以下、全高1,550mm以下、重量2,000kg以下といった制限が多い。 ID. Buzzは3つとも超えている。
特に車両重量が2,550kg(Pro)/2,720kg(LWB)になるため、 平面駐車場でも重量制限のある構造では確認が必要になる。 契約前に管理会社へ車検証記載値を伝えて確認してほしい。
乗り込みと運転席からの視界


シャランとは違い、ステップに足を載せないと乗り込みにくい。床が高いので、シャラン感覚で乗ろうとすると一瞬戸惑う。

運転席に座ると、太めのAピラーがやや視界を狭める。ただし全体としてはシャランより視界が広く、周囲の状況を把握しやすい。

着座位置が高く、ボンネットが短いぶん前方の見切りが良いのだと思う。
ID.4と同様のコラムシフトを操作すると、巨体なミニバンEVが動き出した。

EVという性格上、走り出しの瞬間には車体の重さを感じる。ところが後輪から560N・mが掛かるので、走り出してしまえば車重は気にならない。
2,720kgという数字を後から見て、むしろ驚いたくらいだ。
シャランに乗っていた人なら分かると思うが、湿式6速DSGには発進や低速域でのもたつきがあった。ID. Buzzには、それが無い。
DSGは中身がマニュアルミッションなので、発進時にはクラッチを繋ぐという動作が必ず入る。 半クラッチの領域を機械が制御しているぶん、どうしても一拍の間が生まれる。
対してID. Buzzには、DSGのようなクラッチ接続を伴う多段変速機がない。 モーターの駆動力は1段固定式の減速機を介して後輪へ伝えられる。つまり発進時にクラッチをつなぐ工程そのものが存在しない。
加えてモーターは極低速域から大きなトルクを立ち上げられるので、アクセルを踏んだときの反応が素直になる。
つまりこれはDSGの出来が悪いという話ではなく、そもそも構造が違うという話になる。 低速域の滑らかさという一点において、EVは仕組みの上で有利になる。
2代目シャランは2010年に登場したモデルになる。ID. Buzzとの間には十数年の設計世代差があるので、設計世代の違いを感じる部分があるのは自然だと思う。
ちなみに面白いのが、ID. Buzzが後輪駆動だという点だ。かつてのワーゲンバスもリアにエンジンを積んだ後輪駆動だった。駆動方式という一点では、先祖返りしていることになる。
ID.4と比べてみる
同じMEBプラットフォームを使う兄弟として、ID.4と並べてみたい。
| 項目 | ID. Buzz(LWB) | ID.4 Pro |
|---|---|---|
| 全長 | 4,965mm | 4,585mm |
| 全幅 | 1,985mm | 1,850mm |
| 全高 | 1,925mm | 1,640mm |
| ホイールベース | 3,240mm | 2,770mm |
| 出力 | 286PS/560N・m | 286PS/545N・m |
| バッテリー | 91kWh | 82kWh |
| 駆動方式 | 後輪駆動 | 後輪駆動 |
| 定員 | 7名 | 5名 |
※ID.4は2026年1月の改良後の数値になる。改良前のProは77kWh・204PS/310N・mだった。
改良後のID.4 Proは、ID.Buzzと同じ286PSになった。トルクも545N・mと560N・mでほぼ並ぶ。

それでも両車の印象はまったく違う。全高が285mm違い、定員が2名違う。同じ出力でも、動かしている車体の性格が別物になる。
| こういう人には | 向いている方 |
|---|---|
| 3列シートが必要 | ID. Buzz一択になる。ID.4は5人乗り |
| 初めてのEV | ID.4。サイズと価格のハードルが低い |
| 駐車場に制限がある | ID.4。全幅1,850mmは機械式の上限に収まる場合がある |
| 荷物も人も積みたい | ID. Buzz。この使い方なら価格差の意味が出る |
私はID.4について「最初の一台には大きすぎたのでは」と以前書いたことがある。
ID. Buzzと並べてみると、ID.4はむしろ扱いやすいサイズに見えてくる。比較対象で印象が変わるという、分かりやすい例だと思う。
EVで一番困るのは、やはり充電
2日間乗って、最も現実的な課題だと感じたのがここになる。

日本仕様ID. Buzzの急速充電性能は、グレードによって約140〜150kW級になる。今回借りたPro Long Wheelbaseは150kW級の急速充電器を利用できる。
メーカー公表値としては、90kWの急速充電器を使用した場合、バッテリー残量20%付近から80%まで約40分と案内されている。
ここからは私が実際に試した際の話になる。
| 充電器 | 体感した所要時間 |
|---|---|
| 150kW級 | 50%から100%まで約30分 |
| 90kW級 | 50%から100%まで50分近く |
※私が実際に試した際の記録になる。測定条件を揃えた比較ではない。
※充電速度はバッテリー残量(SOC)やバッテリー温度、外気温、充電器側の状態などによって変化する。同じ充電器でも常に同じ時間になるわけではない。
30分なら許容できるが、50分となると話が変わってくる。
車両側が150kWを受け入れられても、90kWの充電器では理論上の上限が90kWになる。さらに実際の受電電力は、バッテリー残量や温度などによって刻々と変化する。
充電器の表示出力がそのまま入り続けるわけではないという点は、EVに乗る前に知っておきたかったことだった。
今回のような移動では、急速充電は80%前後で切り上げ、必要なら目的地や自宅で普通充電する方が時間効率は良いと感じた。
リチウムイオンバッテリーは、残量が増えるほど充電を受け入れられる速度が落ちていく。 満タンに近づくほど、同じ1%を入れるのに時間がかかる。
スマートフォンで、80%まではすぐなのに残り20%が妙に遅い、という経験があると思う。 あれと同じことが起きている。
つまり急速充電で100%まで入れようとすると、最後の20%に時間を取られやすい。 80%で切り上げて出発し、残りは別の場所で入れる。今回の使い方では、これが一番ストレスが少なかった。
もちろん、長距離の旅行で100%必要な場面もあるし、自宅に充電環境が無い人もいる。 誰にでも当てはまる正解という話ではない。
ただし近くに150kW級の充電器が無い場合、1回の充電で済ませられないのは不便だと感じた。自宅充電の環境があるかどうかで、この車の評価は大きく変わる。
充電速度については不満を書いたが、費用面では優遇されている。
ID. Buzzを新車で成約・登録し、PCA(プレミアム・チャージング・アライアンス)のアプリで情報登録を完了すると、 Volkswagen・Audi・Porscheの正規ディーラーに設置されたPCA加盟の急速充電器を、時間無制限で最長1年間無料で使える。
PCAの充電器は90〜150kW級が中心になる。 時間の問題は残るが、コストの問題はかなり軽くなる。
なおPCAはレクサスの充電ネットワークとも連携しているが、 上記の無料特典の対象はVolkswagen・Audi・Porscheの正規ディーラーに設置された充電器になる。 条件は変更される場合があるので、購入時に販売店で確認してほしい。
背の高さから想像するより安定している

走っていて感じたのは、ボディがしっかりしているように感じたということだった。もちろん試乗しただけで剛性を測定したわけではないので、あくまで運転席で受けた印象になる。

駆動用バッテリーが車体の最下部、前後アクスル間の床下に敷き詰められている。この構造による低重心で、カーブでのふらつきが少ない。
もちろん全高1,925mmの車なので、カーブを抜けた後や車線変更時には車体の動きを感じる。それでも背の高さから想像するより、ずっと落ち着いている。
欧州仕様のID. Buzzは、2025年のEuro NCAPで5つ星評価を獲得している。2022年の評価後に改良が加えられ、再評価された結果になる。
ただしこれは欧州仕様に対する試験結果になる。日本仕様や特定グレードの安全性を保証するものではないので、あくまで参考情報として見てほしい。
試験車両はID.Buzz Pro 210kW、車両重量2,384kgの左ハンドル。評価は左ハンドル・右ハンドルの両方に適用されるとされている。内訳は次のとおりになる。

動画内での運転者へのエアバック保護力に驚かされ、側面衝突時のボディの損傷具合もかなり丈夫に作られている印象だった。
数字だけ見ると「84%は低いのでは」と感じるかもしれない。他のモデルと並べてみる。
星の数だけで判断するのは危ういと思っている。評価書には、良かった点と弱かった点の両方が書かれている。
| 評価 | 内容 |
|---|---|
| 高く評価された点 | 6歳児・10歳児ダミーによる前面・側面衝突で満点。チャイルドシートの設置チェックも満点だった |
| 高く評価された点 | 前席間に乗員同士の衝突を防ぐエアバッグを装備。追突時のむち打ち保護も前後席とも良好とされた |
| 高く評価された点 | 水没時にドアと窓が開けられることを実証。先進eCallと多重衝突ブレーキも備える |
| 指摘された点 | フルラップ前面衝突で、後席乗員の胸部保護が「弱い(weak)」と評価された |
| 指摘された点 | 側面ポール衝突でカーテンエアバッグが意図どおりに展開せず、頭部保護が「適切(adequate)」に留まった |
| 指摘された点 | ドライバーモニタリングは眠気を検知する間接式で、わき見の検知には対応していない |
※Euro NCAP 2025年評価の講評をもとにまとめたものになる。
歩行者・自転車の保護では、骨盤部の保護がほぼ全ての測定点で「poor」という結果だった。 フロントが立った箱型という、バンの形状に起因する部分が大きいのだと思う。
Euro NCAPの講評には、脚部などで得点できなければID. Buzzは4つ星になっていた、という趣旨の記述がある。
5つ星という結果は事実だが、全項目が満点に近いという意味ではない。 ここを知らずに「5つ星だから安心」と受け取るのは、少し乱暴だと思う。
私が運転席で感じた「しっかりしている」という印象と、この評価書の内容は、完全に一致しているわけではない。体感は体感、試験結果は試験結果として、分けて受け取ってほしい。
買うならどうするか
ここが一番悩ましい部分になる。
| グレード | 価格 | 内容 |
|---|---|---|
| Pro | 888万9,000円 | 6人乗り/84kWh/524km |
| Pro Long Wheelbase | 997万9,000円 | 7人乗り/91kWh/554km |
※いずれも税込のメーカー希望小売価格。オプションを加えると1,000万円を超える。
ID. Buzz最大のデメリットは、車両価格が高すぎるという点になる。

約900万〜1,000万円という新車価格、EVであること、中古市場での流通量。これらを考えると、私は値落ちリスクを大きめに見ている。

ただし国内販売から日が浅く、現時点で長期的なリセールを断定できるだけのデータはない。ここは私の見立てとして読んでほしい。
新車で買う場合は、数年で乗り換える前提ではなく 長く乗る前提で計算した方がいい。 リセールを織り込んだ購入計画は、現時点では読みにくい。
逆に言えば、中古価格がこなれてくれば、長期保有を前提に中古車を狙うのはかなり面白い選択肢になると思う。 走りについては、それだけの魅力がある車だった。
リセールを重視するなら、アルファードやヴェルファイア、ステップワゴンに乗っていた方がいいという結論になってしまう。それは正直なところ、否定できない。
タチバナのひとりごと
正直に言うと、借りる前はID. Buzzに懐疑的だった。1,000万円のワーゲンバス、と冷めた目で見ていた部分がある。
2日間乗ってみて、その評価は半分変わった。走りについては素直に良いと思った。残り半分が変わらないのは、やはり価格とリセールの話になる。車としての完成度と、買い物としての妥当性は別だと改めて思わされた。
それでもミニバンとEVの相性は良い

ここまで価格の話を書いてきたが、ミニバンとEVの組み合わせ自体は、かなり良いと思った。
| 相性が良いと感じた点 | 理由 |
|---|---|
| 低速域の滑らかさ | 変速機が無いので、発進や渋滞での一拍が生まれない。人を乗せる車として効いてくる |
| 静粛性 | 後席の会話がしやすい。3列目まで人が乗る車では意味が大きい |
| 低重心 | 背の高い車の弱みを、床下バッテリーが打ち消している |
| トルク | 重い車体と多人数乗車に対して、モーターのトルク特性が噛み合う |
今後ミニバンを買うという場面が来たとき、EVという選択肢でも良いという気持ちになった。これは乗る前には無かった感覚だ。

国産からミニバンEVが出てくれば、リセールの問題は解消される可能性がある。そうなったときに、この2日間で感じた「EVミニバンの気持ち良さ」が広く知られるようになるのだと思う。
まとめ
- 試乗車はPro Long Wheelbase。 2,720kg・286PS・560N・mの後輪駆動
- 全幅1,985mmはシャランより75mm、アルファードより135mm広い
- 国道は平気だが、狭い生活道路では最後まで対向車が気になった
- DSGのもたつきが無いのは熟成の差ではなく、 クラッチ接続を伴う多段変速機を持たないという構造の差になる
- ID.4 Proは改良後に286PSへ。出力は同じでも車体の性格はまるで違う
- 急速充電は約140〜150kW級。私が試した際、90kW器では50%→100%に50分近くかかった
- 充電は満タンに近づくほど遅くなる。 今回の使い方では80%前後で切り上げる方が効率が良かった
- 新車成約+PCA登録で、VW・Audi・Porscheの正規ディーラーに設置されたPCA加盟充電器が最長1年間無料になる
- 欧州仕様は2025年のEuro NCAPで5つ星。 ただし後席胸部や歩行者の骨盤保護など、指摘された項目もある
- 最大の弱点は価格。 リセールは読みにくく、長く乗る前提で計算したい
2日間、自分の生活圏で普通に使ってみた。狭い道で気を遣い、車幅の感覚を掴み直し、充電器の前で時間を潰した。それでも返却するときには名残惜しかった。

販売店で短時間ハンドルを握っただけでは、良さも不満もここまで見えてこなかったと思う。
価格の問題は残る。それでもミニバンEVという方向性そのものは、間違っていないと思う。
諸元はフォルクスワーゲンおよび各メディアが公表している日本仕様の数値に基づく。 充電時間、走行フィール、他車との比較はいずれも筆者が実際に試乗して感じた内容であり、測定条件を統一した比較試験ではない。
Euro NCAPの評価は欧州仕様に対するもので、日本仕様や特定グレードの安全性を保証するものではない。 リセールに関する記述は筆者の見立てであり、公表された統計に基づくものではない。
価格・仕様・充電特典の条件は変更される場合があるため、最新情報はフォルクスワーゲン公式サイトまたは販売店で確認してほしい。

