希少なハイパーカーが勢揃い!!前澤杯 MAEZAWA CUP2026へ行ってきた。
茂原でハイパーカーが見れる

前澤杯 MAEZAWA CUP 2026は、ZOZO創業者 前澤友作氏が企画し、日本ゴルフツアー機構(JGTO)が共催する国内男子ゴルフツアー。2026年4月13日(月)~4月26日(日)にかけて、通常は一般開放されていない前澤氏のプライベートゴルフ場「MZ GOLF CLUB」(千葉県睦沢町)を舞台に開催された、国内ツアーでは唯一の2週間開催、賞金総額最大2億円、優勝賞金4,000万円という国内トップクラスの大会となる。
2年目となる今年は本戦4日間(4月23日〜26日)が事前登録制の無料観戦として開放され、最大2万人の来場を想定して実施された。
ただ、この大会が他のゴルフトーナメントと一線を画すのは、会場のあちこちに前澤友作氏所有のハイパーカーとスーパーカーがズラリと特別展示されているという点に尽きる。
グリーンと池を背景に、総額数十億円規模の希少車両がゴルフギャラリーを横目に鎮座する光景は、日本のゴルフ大会史上でもおそらく前例がない。
私はゴルフの方は興味がないのだが、昨年の房総走祭2025に続いてハイパーカを間近で見れるチャンスであったため、観戦チケットを取得し参加してきた。

自宅から会場付近の駐車場まで車で行き、そこからのシャトルバスを利用した。
流石前澤社長といった所で、移動のバスが観光バスの貸切ということに驚いた。
公式の発表によれば、今回の目玉はリマック・ネヴェーラの前澤杯2026での初お披露目であり、更にFerrari 296 GT3、Aston Martin Valkyrie、Mercedes-AMG ONE、Koenigsegg Jeskoといったハイパーカーがコース内各所に展示されるというものであった。
今回は、ゴルフそのものよりもほぼハイパーカー目当てで参加した私の視点から、会場で実際に対面した車両について1台ずつ解説していきたいと思う。
開催基本情報
本戦:4月23日(木)〜4月26日(日)
(千葉県長生郡睦沢町)
(株式会社カブ&ピース)
1日あたりの定員制
優勝賞金 最大4,000万円
Ferrari 296 GT3

1961年タルガ・フローリオの246 SP以来、実に60年ぶりに復活したフェラーリのミッドリアV6レーシングカー。
会場入り口から入場し少し歩くと先ず初めにフェラーリ 296 GT3が展示されていた。
前澤杯2026で本戦期間限定のスペシャル展示車として迎えられた一台になる。
購入出来る資金力は無いが生意気に言うと、私はフェラーリといえば自然吸気V12やV8の人間で、ターボV6にはどこか違和感があった。
1960年代、フェラーリはディーノブランドでV6エンジンを展開していたが、エンツォ・フェラーリ自身は「V12こそがフェラーリの魂」という信念を持ち続けており、ディーノはあくまで「ディーノ」であって「フェラーリ」ではないと頑なに区別してきた。
「6気筒のフェラーリ」が真の意味でフェラーリを名乗ったのは、ロードカーで言えば2021年の296 GTBが史上初であった。
そう考えると、この296 GT3はエンツォ亡き後のフェラーリが下した、ある種の「決別」と「継承」を同時に表現したマシンだと言える。
決別はV12至上主義からの、継承は「常にレースで勝つフェラーリ」という看板を。
20%のダウンフォース増、そして250 LMの面影

ベースはロードカーの296 GTBだが、GT3規定に合わせて完全に別物として設計されており、アルミフレームもブレーキも新設計。
先代488 GT3が挙げた100以上のタイトルと約500勝という遺産を背負ってのデビューは相当なプレッシャーであったはずだが、蓋を開けてみれば2023年のデイトナ24時間でデビューし、同年のニュルブルクリンク24時間で早速勝利を挙げた。
更に2025年には欧州GTワールドチャレンジやWECのLMGT3クラスで勝利を量産し、同年11月のFIA GTワールドカップ(マカオ)でも優勝。デビュー僅か3年で、488 GT3の後継としての地位を確立しつつある。
そして2026年デイトナでは、進化版の296 GT3 Evoがデビューを果たした。新設計のギア比、改良された冷却システム、ボンネットに2つの新型エアインテークなど、ロードカーで言えばマイナーチェンジに相当する熟成が施されており、レーシング界の進化のスピードを改めて感じさせた。
パワートレイン
エンジンはロードカーの296シリーズと同じく、2,992ccのツインターボV6(バンク角120度)を搭載するが、GT3はハイブリッドシステムを持たない純粋な内燃機関仕様となる。
120度バンク角のVの中にターボチャージャーを収める構造は、低重心化とコンパクト化に寄与しており、ロードカーから転写した素性そのままにレース規定の中で機能美を磨いた設計だ。
最高出力は600PS(GT3 Evoも同じく447kW)で、トランスミッションはレース専用に開発された6速シーケンシャルが採用されている。単板クラッチを選択し、エアロダイナミクスと重量配分のためにトランスバース(横置き)で搭載されるなど、GTレースカーとして徹底的に作り込まれている。
歴代フェラーリ・ミッドエンジンV6マシンの系譜
| モデル | 年代 | エンジン | 位置づけ |
|---|---|---|---|
| 246 SP | 1961年 | 2.4L V6 NA | タルガ・フローリオ優勝、フェラーリ初のミッドリアV6 |
| Dino 206 GT | 1968年〜 | 2.0L V6 NA | ディーノブランドのロードカー |
| Dino 246 GT/GTS | 1969年〜 | 2.4L V6 NA | 「フェラーリ」を名乗らなかった伝説 |
| 296 GTB | 2021年 | 3.0L V6 ターボ+HEV | 「フェラーリ」を名乗る初のV6ロードカー |
| 296 GT3 | 2023年 | 3.0L V6 ツインターボ | 60年ぶりのV6ミッドリアレーサー |
エクステリア

エクステリアはロードカー296 GTBのデザインをベースに、空力性能を最優先に調整されたもので、大型フロントスプリッター、リアディフューザーなど、典型的な現代GT3レーシングカーの装備が一通り揃っている。
ただし、フェラーリのGT3はBoP(バランス・オブ・パフォーマンス)による性能調整を前提とするため、過激なウイングやカナードで圧倒するというよりも、ドライバビリティとセットアップの容易さ、そしてタイヤに優しい空力バランスを重視して作られているのが特徴になる。
先代488 GT3比でダウンフォースは20%増加。低地上高でのセンシティビティを抑えるため、設計段階から空力マップが丹念に作り込まれている。

デザインの原型は1963年の250 LMにまで遡るとされ、「シンプルかつ機能的なフォルムの中に、フェラーリの『機能が美を生む』という哲学が息づいている」というのは、フェラーリ・コンペティツィオーニGTの公式弁である。
確かにボディ後方の絞り込みやキャノピー形状にはどこか1960年代のフェラーリ・スポーツプロトタイプの面影が漂う。
1台で存在感を放ちつつ、他の派手な展示車両を前にしても決して負けない強い自我を持った1台だった。
Ferrari 296 GT3 諸元表(クリックで展開)
| エンジン型式 | F163(レース仕様) |
| 最高出力 | 600PS(447kW) |
| エンジン種類 | V6 120度バンク ツインターボ |
| 総排気量 | 2,992cc |
| トランスミッション | 6速シーケンシャル トランスバース |
| 駆動方式 | ミッドリア RWD |
| デビュー戦 | 2023年 デイトナ24時間 |
| 前身モデル | 488 GT3(2016〜2022年) |
McLaren GTS

少し歩くとクラブハウス前に展示されてたのは白いマクラーレンGTSであった。
このマクラーレンGTSは、実はマクラーレンの歴史の中でも極めて特殊な立ち位置を占めている。マクラーレンというブランドは1992年にあのF1(V12 BMW製エンジン搭載、最高速386km/hを記録した3座席ハイパーカー)を世に送り出した瞬間から世界中の自動車愛好家に「ハイパーカーの祖」として刻まれた。
その後しばらくロードカー製造から遠ざかっていたが、2011年にMP4-12Cで本格復帰。
そこから720S、765LT、Sennaなどの「サーキット番長」を矢継ぎ早に展開してきたわけだが、彼らがずっと避けてきたカテゴリーがあった。それが「グランドツアラー」である。
「マクラーレンらしくないマクラーレン」が
誕生した背景

マクラーレンの哲学は一貫して「軽量・高出力・サーキット至上」であり、ラゲッジスペースや乗り心地、長距離ツーリング適性といった要素は意図的に切り捨てられてきた。
だが2019年にGTという「グランドツアラー」を発表する。これは「マクラーレンの伝統と矛盾するモデル」という指摘もされたが、本質的には「サーキット哲学を捨てずに、日常使いも可能にする」という挑戦であった。
そして2023年末、そのGTを更に磨き上げる形で登場したのが、このGTSとなる。GT比で15PSの出力向上、10kgの軽量化、そしてフロントバンパーのリデザインによる空力強化を施し、「日常使いもできる、しかし本気のスーパーカー」という難題への解答として完成した。
パワートレイン
心臓部は、他のMcLaren製モデルと共通する4.0L V8ツインターボエンジン「M840TE」になる。最高出力635PS/7,500rpm、最大トルク630N•m/5,500〜6,500rpmを発生し、先代のGTから15PSほど引き上げられた。
トランスミッションは7速DCT(SSG:シームレス・シフト・ギアボックス)で、後輪を駆動する純粋なRWDレイアウト。パワー/ウェイトレシオはクラストップを謳い、0-100km/hは3.2秒、最高速度は326km/hに達する。
ミッドシップレイアウトに重量級のバッテリーを積んだハイブリッド勢が勢いを増す中、非電動化の素性を残しながら高出力を維持する数少ないモデルでもあり、内燃機関ファンにとってはありがたい存在だ。
マクラーレンGTファミリーの進化
| モデル | 発表年 | 最高出力 | 0-100km/h | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| McLaren GT | 2019年 | 620PS | 3.2秒 | マクラーレン初のGT |
| McLaren GTS | 2023年末 | 635PS | 3.2秒 | GTの後継、ボディ軽量化 |
| McLaren 720S(参考) | 2017年 | 720PS | 2.9秒 | 同じM840系エンジン搭載 |
エクステリア

マクラーレンGTSのエクステリアは、従来のGTを踏襲しつつフロントバンパーが再設計され、エアインテークの彫りが深くなったのが最も分かりやすい変更点となる。
横から見ると、ロングノーズ+流れるようなキャビン+テールエンドに向かって絞り込まれるリアという構成は、マクラーレンのスーパーシリーズのような攻撃性ではなく、むしろ英国グランドツアラーの系譜を感じさせる落ち着いた流麗さがある。

ガラスのテールゲートを持つのが特徴で、リア荷室には14.8立方フィート(約420L)という、このカテゴリーでは異例の積載容量を確保している。
個人的に気になったのが、ルーフパネルにリサイクルカーボンファイバーが採用されている点で、これはマクラーレン初の試みになる。サスティナビリティへの姿勢が、ようやくスーパーカーの世界にも本気で侵食してきていることを実感した。
McLaren GTS 諸元表(クリックで展開)
| 全長×全幅×全高 | 4,683×2,095×1,213mm |
| 車両重量(乾燥) | 1,520kg |
| エンジン型式 | M840TE |
| 最高出力 | 635PS / 7,500rpm |
| 最大トルク | 630Nm / 5,500〜6,500rpm |
| エンジン種類 | V8 DOHC 4.0L ツインターボ |
| 総排気量 | 3,994cc |
| トランスミッション | 7速DCT(SSG) |
| 0-100km/h | 3.2秒 |
| 最高速度 | 326km/h |
Ferrari Enzo

会場の中でも、ひときわ人だかりができていたのが、この黒いフェラーリ・エンツォであった。
2002年から2004年にかけて限定399台のみ生産された、エンツォ・フェラーリの名を冠する唯一の市販モデル。F50の後継として位置づけられる「公道を走るF1」と称される伝説のハイパーカー。
私はこのエンツォを目の前にして童心に帰ったような興奮が蘇り、どのハイパーよりも魅力的であった。
今回展示されていた個体は、ブラックボディに黒ホイールという「闇」に身を包んだ仕様で、日中のコースの緑とのコントラストが非常に強烈であった。隣にマクラーレンGTSが並んでいるにも関わらず、エンツォだけが別格の時間を纏っているような錯覚を覚えた。
「F1のロードカー版」の元祖

近年、AMG ONEやヴァルキリーなど「F1技術をロードカーに直接持ち込む」という手法が当たり前になっているが、その思想の先駆けがこのエンツォであることは案外知られていない。
エンツォは、フェラーリがF1で培った最先端技術を惜しみなく投入した「テクノロジー・トランスファー」の結晶で、2000〜2002年のF1マシン(特にミハエル・シューマッハがチャンピオンを獲得したF2002)から直接派生したカーボンモノコック、プッシュロッド式サスペンション、そして自然吸気V12エンジンという3点セットは、後のLaFerrariやデイトナSP3へと続く現代フェラーリ・ハイパーカーの原型となった。
奥山清行氏「15分でデザインを通した」逸話の真実
「あの15分は、ゼロから描いた15分ではなく、準備を続けた何ヶ月分かを15分で取り出した15分だった」
エンツォのデザインを語る上で必ず出てくるのが、ピニンファリーナに在籍していた日本人デザイナー奥山清行氏のエピソードだ。
プロジェクト初期、チームで進めていたデザイン案がフェラーリ社から否決され、ルカ・ディ・モンテゼーモロ会長が部屋を出ようとした際、ピニンファリーナの社長が「15分だけ時間を稼ぐから、新しい案を用意しろ」と奥山氏に指示。
15分で描いたスケッチが採用され、エンツォの基盤になった——という話だ。
ただ、この「15分の奇跡」は表向きの逸話で、本当のところは奥山氏自身が「チームの案では通らない」と最初から見抜き、誰にも言わずに「本気のデザイン」をデスクの奥に隠して描き続けていた、という事実が後年明らかになっている。
奥山氏自身も「15分のプレゼンのためにどれだけ準備できるかがプロの仕事」と語っており、これはどんな世界にも通じる名言だと個人的に強く共感したエピソードでもある。
パワートレイン

心臓部は、フェラーリ史上初めて65度バンク角を採用した6.0L自然吸気V12エンジン「Tipo F140 B」になる。最高出力660PS/7,800rpm、最大トルク657Nm/5,500rpmを発生し、リッターあたり110PSという当時市販車最高レベルの比出力を誇った。
このエンジンは2002年型F1マシン(F2002)のV10ユニットから派生した技術を多数取り入れ、チタン製コンロッド、軽量ピストン、可変長インテークマニホールド、ドライサンプ潤滑システムを採用。最高回転は8,200rpmに達する。
そして注目すべきは、このF140エンジンが後のF12 BerlinettaやLaFerrari、812 Superfast、Daytona SP3まで20年以上にわたってフェラーリV12の系譜を支え続けたという事実だ。

エンツォは1台のハイパーカーであると同時に、フェラーリV12の「次の20年」を決めた歴史的車両だったとも言える。
トランスミッションはF1スタイルの6速セミオートマチック(電油圧式パドルシフト)で、シフトタイムは0.15秒という当時の市販車水準を大きく超える速さで変速する。
0~100km/h加速3.65秒、最高速度350km/h超。23年前の車両とは思えない性能で、現代の最新スーパーカー相手でも依然として引けを取らない実力を持つ。
F140エンジンの系譜
| モデル | 年式 | 排気量 | 最高出力 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| Enzo | 2002〜2004年 | 6.0L | 660PS | F140 Bの初代搭載車 |
| 599 GTB Fiorano | 2006年〜 | 6.0L | 620PS | F140 C |
| F12 Berlinetta | 2012年〜 | 6.3L | 740PS | F140 FC |
| LaFerrari | 2013年〜 | 6.3L+HEV | 963PS(システム) | F140 FE |
| 812 Superfast | 2017年〜 | 6.5L | 800PS | F140 GA |
| Daytona SP3 | 2022年〜 | 6.5L | 840PS | F140 HC、最終進化形 |
エクステリア

エクステリアは前述の通り、ピニンファリーナ&フェラーリF1チームの共同設計。
全長4,702mm、全幅2,035mm、全高1,147mmの低くワイドなプロポーションは、F1マシンを彷彿とさせるシャークノーズと、急激に落ち込むリアエンドが特徴。

ボディ全体はカーボンファイバーとケブラーで構成され、乾燥重量1,255kgを達成している。
フロントは鋭く尖ったノーズとサイドの大型エアインテーク、小型化されたヘッドライトがバンパー形状に溶け込むことでCd値0.36を実現。
今となっては「攻撃的すぎる」とも評されるこのフロントマスクだが、当時の自動車雑誌では「F1を公道で走らせるために必要なデザイン」として概ね好意的に受け止められた。
特徴的なバタフライドア(上下開き)は軽量カーボン製で、開閉時の演出は現代のハイパーカーにも大きな影響を与えた。後継のLaFerrariもドア開閉ギミックも、エンツォの系譜を引いていると言える。
個人的に感動したのがリアで、カムバック形状の急激なカットオフが空気の剥離を最小限に抑え、大型ディフューザーとワイドなリアテールには伝統の4灯テールが統合されたデザインになっている。
クワッドエキゾーストは左右配置でV12の咆哮を直接放出し、リアスクリーン越しに見えるエンジンが芸術品のように鎮座する。
20年以上経った今も色褪せない、機能美の到達点のひとつと言っていい1台だった。ブラックの個体だったこともあり、機能美が陰影で浮かび上がる感じが個人的には堪らなかった。

Ferrari Enzo 諸元表(クリックで展開)
| 全長×全幅×全高 | 4,702×2,035×1,147mm |
| 車両重量(乾燥) | 1,255kg |
| エンジン型式 | Tipo F140 B V12 |
| 最高出力 | 660PS / 7,800rpm |
| 最大トルク | 657Nm / 5,500rpm |
| エンジン種類 | V12 65度 DOHC 6.0L 自然吸気 |
| 総排気量 | 5,998cc |
| トランスミッション | 6速セミAT(F1マチック) |
| 0-100km/h | 3.65秒 |
| 最高速度 | 350km/h超 |
| 限定生産数 | 399台 |
| 価格(2026推定) | 約5~28億円 |
Mercedes-AMG ONE

会場で最も強い「異物感」を放っていたのが、このMercedes-AMG ONEであった。
その理由は明快で、搭載されるのはF1マシンそのものに使われていた1.6L V6ターボハイブリッドのパワーユニットだからだ。派生でも模倣でもなく、現代F1のトップコンテンダーであったメルセデスが、2014〜2020年頃にかけて支配的な強さを見せたW06ベースのPU106B Hybridを、ほぼそのまま路上に下ろしてきたのがこのAMG ONEとなる。
5年間の難産だった「F1の公道化」
コンセプトモデルは2017年のフランクフルトモーターショーで「Project ONE」として発表され、当初の計画では2019年に納車開始予定であった。

だが、ここから5年間に及ぶ難産が始まる。F1エンジンを公道で動かすために必要な「アイドリング安定性」「排出ガス規制適合」「燃費水準達成」「冷間始動の信頼性」、そしてなにより「タクシー乗り場で他の車と並んでも止まらないエンジン」を実現するため、エンジニアたちは予想を遥かに超える試行錯誤を強いられた。
結果、F1で15,000rpm回るユニットを11,000rpmまで引き下げ、アイドルを通常のロードカーの2〜3倍にあたる1,280rpmに設定。
それでも「コールドスタート時はまずバッテリーで暖機を完了してからICEを起動する」という、もはや儀式に近い起動シーケンスが必要となる。「乗り込んでキーを捻ったらすぐ走り出す」という、普通の車では当たり前の所作が、AMG ONEでは出来ない。
維持コスト:5万kmごとにエンジンのオーバーホールが必須で、その費用は約85万ユーロ(約1.4億円)と報じられている。所有するオーナーの財力は計り知れない。
パワートレイン

エンジンは前述の通り、メルセデスF1由来の1.6L V6ターボ + 電動モーター4基という構成。
内燃機関(ICE)が574PSを発生し、これに電動モーター4基(クランクシャフト直結のMGU-K、ターボチャージャー側のMGU-H、そして前輪それぞれを駆動する120kW×2のフロントモーター)が加わることで、システム総合出力は1,063PSに達する。
0-100km/h 2.9秒、0-200km/h 7.0秒、0-300km/h 15.6秒、最高速度は電子制御リミッターで352km/hに制限されている。
そして、AMG ONEを語る上で外せないのがニュルブルクリンク北コース市販車最速タイム6分35.183秒。これは2022年8月にマロ・エンゲルがMichelin Cup 2 Rタイヤで記録したもので、同コースを走破した量産市販車の中で最速の記録として現在も君臨している。
F1パワーユニット搭載市販車の比較
| モデル | F1由来エンジン | システム出力 | 0-100km/h | レッドライン |
|---|---|---|---|---|
| Mercedes-AMG ONE | 1.6L V6 ターボHEV | 1,063PS | 2.9秒 | 11,000rpm |
| Aston Martin Valkyrie | 6.5L V12 NA(Cosworth) | 1,160PS | 約2.5秒 | 11,100rpm |
| Ferrari Enzo(参考) | F1派生6.0L V12 NA | 660PS | 3.65秒 | 8,200rpm |
エクステリア

ボディは全面カーボンファイバー製で、完全にF1思想で設計されている。
フロントホイールハウスには可動スラット、フロントディフューザーにはアクティブフラップ、リアには2段階展開式のDRSリアウィング、そして車高は「Race Plus」モードでフロント37mm/リア30mm下降するなど、公道走行可能な車両としてはあり得ないレベルのアクティブエアロを纏っている。

特に印象的なのがF1を模した中央排気管で、中央の大きな丸型排気の左右に小さな排気が並ぶ独特の配置は、現役F1マシンのテールパイプそのもの。

アルミニウム鍛造10スポークホイールにはNACAダクトが切られ、ブレーキ冷却とダウンフォース獲得を兼ねる。

ドライバーが乗るシートは取り外しできず、カーボンモノコックに直接統合されている。シートポジションを調整したい時はステアリングコラムとペダルボックスの方を動かす、というのもF1流儀そのものだ。

展示車両はシルバーとティール(淡青緑)のコンビネーションで、これがまさにメルセデスF1のペトロナスカラーそのもの。Mercedes-AMG Petronasに馴染みがある人間なら、この配色を見るだけで鳥肌が立つはずだ。私も思わず2〜3周してしまった。

「走行できる状態で維持するだけでも相当な覚悟が必要」という、まさにF1のロードカー版。見ているだけで「この車を所有するというのはどういう責務なのか」を考えさせられた。
Mercedes-AMG ONE 諸元表(クリックで展開)
| 全長×全幅×全高 | 4,756×2,010×1,261mm |
| 車両重量 | 1,695kg |
| エンジン型式 | Mercedes-Benz PU106B Hybrid(改) |
| 内燃機関出力 | 574PS |
| システム総合出力 | 1,063PS |
| エンジン種類 | V6 90度 1.6L ターボ+電動モーター4基(PHEV) |
| 総排気量 | 1,600cc |
| トランスミッション | 7速シングルクラッチAMT |
| 0-100km/h | 2.9秒 |
| 最高速度 | 352km/h |
| 限定生産数 | 275台 |
| ニュルブルクリンク記録 | 6分35.183秒(市販車最速) |
| 価格(2026推定) | 約4億円(新車:約2.72億円) |
Aston Martin Valkyrie

英国車贔屓を否定するつもりはないが、ヴァルキリーに関しては国籍を超えた畏敬の念を抱いている。私の中ではブガッティ・シロンとケーニグセグ ジェスコと並んで「現代ハイパーカー御三家」の一角を占める存在。
「Nebula」と呼ばれた狂気のプロジェクト
ヴァルキリーは、2016年にアストンマーティンとRed Bull Racing Advanced Technologiesが共同開発を発表したことから始まった。設計にはエイドリアン・ニューウェイが自ら深く関与。F1史上最も成功したエンジニアの一人と称される彼が、F1から離れて初めてフルコミットした自動車プロジェクトがこのヴァルキリーになる。
コードネーム「Nebula」の意味
Newey × Red Bull × Aston Martin Lagonda の頭文字を取ったもの。後に「AM-RB 001」と改名されるが、初期コードネームに込められた意気込みからして、このプロジェクトの象徴性が窺える。
当初の目標は「F1マシンそのものを、公道でも走れるようにする」という、どう考えても成立しない前提を、Neweyの執念で物理的に成立させてしまった——というのが、ヴァルキリーが他のハイパーカーと一線を画する所以だ。
40ミクロンのバッジが象徴する執念
ヴァルキリーの軽量化への執着を象徴するエピソードが、フロントエンブレムだ。

通常の市販モデルではエナメル仕上げの金属バッジが取り付けられるが、これは「重量物」かつ「ボンネット表面に飛び出すことで空力を乱す異物」と判断され、ヴァルキリー専用に厚さわずか40ミクロン(=0.04mm)のアルミニウム製バッジが新規開発された。重量は通常のバッジ比で99.4%軽量化。塗装の中に直接埋め込まれるという仕様だ。
たかがバッジ。されどバッジ。「1グラムでも軽く」という設計思想が、ロゴという最も削りにくい部分にまで容赦なく適用されているところに、Neweyの執念が滲む。
更に、リアサスペンションの油圧アクチュエーターにはアパッチ攻撃ヘリ由来の技術が転用されているという話もある。これは公道車に求められるダウンフォースが既存自動車部品メーカーの想定範囲を超えていたため、より過酷な使用環境向けの軍需技術に頼らざるを得なかったことに起因する。
パワートレイン
エンジンはCosworthが専用設計した6.5L 65度 自然吸気V12(Cosworth RA)で、単体で最高出力1,000bhp(1,014PS)/10,500rpm、最大トルク740Nm/7,000rpmを発生する。レッドラインは11,100rpmで、これは市販のロードカー用内燃機関として史上最高の回転数となる。

エンジン単体重量はわずか206kgで、比出力は約154PS/Lという信じ難い値を叩き出している。これに加えて、Integral Powertrain製の電動モーター(160PS)とRimac製の軽量バッテリーによるKERSシステムが組み合わされ、システム総合出力は1,160PSに到達する。
面白いのが、Cosworthがこの巨大V12を開発するにあたって、まず「V12の4分の1」である1.6L 直列3気筒のプロトタイプを作り、燃焼室形状やバルブ角度を徹底的に詰めてから、最終的に4基の3気筒を直列・並列に繋いでV12にした、という事実だ。F1での開発手法をそのまま転用した極めてレース工学的なアプローチで、まさに「ハイパーカーの皮を被ったレーシングエンジン」と言える。
ヴァルキリー開発タイムライン
| 年 | 出来事 |
|---|---|
| 2016年 | アストンマーティン × Red Bull Racing 共同開発を発表(コードネーム Nebula) |
| 2018年 | ジュネーブモーターショーでAMR Pro(トラック専用版)を初公開 |
| 2019年 | WEC ハイパーカー参戦を発表(後に2020年に一度撤回) |
| 2021年 | ロードカーの納車開始 |
| 2023年 | WEC参戦計画を再始動、2025年デビュー目標を発表 |
| 2025年 | Valkyrie AMR-LMHがWEC・IMSAでデビュー |
| 2026年 | Valkyrie LMオーナー向けハンドオーバーイベント開始予定 |
エクステリア

エクステリアは、F1由来のベンチュリ効果を徹底的に活用した「走る床」のようなデザインで、フルオープンのアンダーボディによる強烈な地面効果と、ボディ上面のエアインテーク/アウトレットの配置により、高速時に1,800kgfのダウンフォースを生成する。これは中型乗用車1台分の重量に相当する力で地面に押し付けられているということで、もはや感覚として理解できるレベルではない。
アストンマーティンのスクエア型ラジエターグリルは大胆にも廃止され、代わりにジェット機の吸気口を思わせる巨大なフロントエアインテークが配置されている。ヘッドライトはウイングの中に埋め込まれるような形で、「あるはずのところにない」配置となっている。
そして2025年からは、このValkyrieをベースにしたル・マン・ハイパーカー版「Valkyrie AMR-LMH」がFIA WECとIMSAのハイパーカークラスに参戦を開始しており、ハイパーカー規定にロードカーベースの車両で参戦する唯一の存在となっている。フェラーリ499Pもトヨタ GR010 Hybridも全て純粋なプロトタイプ・レーサーで、ロードカーとは別物。だがアストンマーティンだけは「ロードカーをそのまま発展させた1台」でル・マンに挑んでいるという、極めて骨太な姿勢を見せている。
前澤氏のコレクションの中でも、車両単体の完成度という意味ではおそらく頂点に近い存在だろう。

Aston Martin Valkyrie 諸元表(クリックで展開)
| エンジン型式 | Cosworth RA V12 |
| 内燃機関出力 | 1,000bhp(1,014PS)/ 10,500rpm |
| システム総合出力 | 1,160PS |
| 最大トルク(ICE) | 740Nm / 7,000rpm |
| エンジン種類 | V12 65度 DOHC 6.5L 自然吸気+KERS |
| 総排気量 | 6,500cc |
| レッドライン | 11,100rpm |
| エンジン単体重量 | 206kg |
| 0-100km/h | 約2.5秒 |
| シャシー | カーボンモノコック |
| 最大ダウンフォース | 約1,800kgf |
| 生産台数 | 150台(ロードカー)+25台(AMR Pro) |
| 価格(2026推定) | 約5〜7億円 |
Koenigsegg Jesko

ケーニグセグ ジェスコは、2019年のジュネーブモーターショーでアゲーラの後継として発表された、スウェーデン発のメガカーになる。
父への敬意を込めた命名

車名の「Jesko(ジェスコ)」は、創業者クリスチャン・フォン・ケーニグセグの父であり、創業初期の経営を支えたJesko von Koenigseggへのオマージュとして命名されている。父であるイェスコ氏は、息子クリスチャンが20代でケーニグセグ社を立ち上げた際、ビジネスの才覚で会社を多くの困難から救い出した「もう一人の創業者」とも言える存在で、当時80代でジュネーブモーターショーに登場し、自分の名を冠した車のお披露目を見届けたという。
創業者が自社の旗艦モデルに父の名を付ける、という極めてパーソナルな命名は、家族経営的な暖かみと「これがケーニグセグ家の集大成だ」という強い意志を同時に感じさせる。
バリエーションはサーキット志向の「Attack」、トップスピード志向の「Absolut」、そしてトラック専用の「Sadair’s Spear」の3種類が存在する。前澤氏が2019年に注文した個体は、前澤氏本人のYouTubeチャンネルで「すっげ、宇宙船だね、これ」と称されたことで話題となった1台でもある。納車価格は約3.8億円と報じられている。
世界最軽量V8クランクシャフト:単一スチールビレットから削り出され、重量はわずか12.5kg。これにより8,500rpmまで伸びる超高回転特性を獲得。
パワートレイン
エンジンは、従来のアゲーラ用5.0L V8ツインターボを再設計したもので、ケーニグセグ初のフラットプレーンクランクシャフト(180度クランク)を採用した点が最大のトピックとなる。
アイドルから7,800rpmまで213ミリ秒で駆け上がる動画も公開されており、これはほぼ物理学の限界に挑む数値だ。
コンロッドはスウェーデン製プレミアムスチール製で、ボルト含めわずか540g。チタン製と同等の軽さでより高い強度を持つ。ピストンには「ケーニグセグ」のロゴが刻印されており、これはオーバーホール時にしか見られない隠しサインのような演出だ。
9速LSTという「常識破り」のトランスミッション
ジェスコを語る上で外せないのが、このエンジンと組み合わされる9速LST(Light Speed Transmission)である。
これは従来のDCT(デュアルクラッチ)という概念そのものを再定義した新トランスミッションで、7枚のウェットマルチディスククラッチと9速分のギアを極めてコンパクトなハウジング内に詰め込んだもの。

従来のDCTは「次のギア」と「現在のギア」を持つ2系統の構造だが、LSTは複数のクラッチを同時に瞬時に開閉することで任意のギアへ直接ジャンプできる。例えば9速で巡航中にドライバーが急激に踏み込めば、3速まで一瞬で飛ぶ「UPOD(Ultimate Power on Demand)」モードが起動する。
変速時間は「事実上ゼロ」と謳われ、人類が量産車の領域でいま考えうる最も狂気的なトランスミッション制御を行ってくる。
ハイパーカー出力比較
| モデル | パワートレイン | 最高出力 | 燃料/バッテリー |
|---|---|---|---|
| Koenigsegg Jesko Absolut | 5.0L V8 ツインターボ | 1,280PS / 1,600PS | ガソリン or E85 |
| Aston Martin Valkyrie | 6.5L V12 NA + HEV | 1,160PS | ガソリン+HEV |
| Mercedes-AMG ONE | 1.6L V6 ターボHEV | 1,063PS | PHEV |
| Rimac Nevera | 4モーター電動 | 1,914PS | 120kWh BEV |
エクステリア

エクステリアは、ケーニグセグ伝統のラップアラウンド・ウインドシールド(航空機のキャノピーを思わせる大型湾曲ガラス)を残しつつ、アゲーラ系から完全にリニューアルされた。

Attack仕様はサーキット志向で、フロントには巨大なカーボンスプリッター、リアには威嚇的なリアウイングを装備し、249km/hで800kg、275km/hで1,000kg、フルスピード付近で最大1,400kgのダウンフォースを発生する。1.4トン級の車を、空気だけで地面に押し付けるという話だ。
もう一方のAbsolut仕様は、リアウイングが廃止され、代わりにルーフ後端から伸びる2本の「リアフィン」が備わり、Cd値は驚異の0.278を達成。最高速度は500km/h超を視野に入れ、記録挑戦は現在も進行中である。クリスチャン本人は「Absolutの後継機をケーニグセグから出すことはない」と公言しており、これがケーニグセグの「絶対最速」追求の終着点であることを宣言している。
ドアはケーニグセグ固有のディイヘドラル・シンクロヘリックス・アクチュエーションドアという特殊な開閉方式で、ヒンジが回転しながら前方に展開するという独自機構を持つ。リモコン操作で扉とボンネットを遠隔開閉できるAutoskin機能も装備する。
会場ではドアが閉じた状態での展示であったが、ボディ全体を撫でるような光の反射と、異様なまでに絞り込まれたキャビンが「本当にこれは市販車なのか」と疑念を抱かせるほどの美しさを放っていた。スウェーデンの片田舎の町、ヘングルホルムにある旧空軍基地で1台ずつ手作業で組み上げられているという背景を知ると、その異質な存在感の理由も納得できる。
Koenigsegg Jesko 諸元表(クリックで展開)
| エンジン型式 | 5.0L V8 ツインターボ(フラットプレーン) |
| 最高出力 | 1,280PS(ガソリン)/ 1,600PS(E85) |
| 最大トルク | 1,500Nm |
| エンジン種類 | V8 DOHC 5.0L ツインターボ |
| 総排気量 | 5,065cc |
| レッドライン | 8,500rpm |
| トランスミッション | 9速LST(Light Speed Transmission) |
| 最大ダウンフォース(Attack) | 1,400kg |
| Cd値(Absolut) | 0.278 |
| クランクシャフト重量 | 12.5kg(世界最軽量V8) |
| 価格(2026推定) | 約3〜4億円 |
Rimac Nevera

そしてこの前澤杯2026の目玉が、前澤氏所有のRimac Nevera(リマック・ネヴェーラ)の国内初お披露目となる。
クロアチアの嵐、ハイパーカー界を呑み込む
クロアチアの若き起業家、マテ・リマックが立ち上げたRimac Automobiliが開発したピュアEVハイパーカーで、「Nevera」の名はアドリア海沿岸を突如として駆け抜ける雷を伴う強烈な嵐に由来する。

マテ・リマックの個人史も興味深い。彼は2007年、19歳の時にBMW E30をEVに改造したのがキャリアの始まりで、当時誰もまともに相手にしなかった「電気自動車のスポーツカー化」というビジョンを、わずか15年でハイパーカー界の頂点まで押し上げた。2018年のジュネーブモーターショーで「C_Two」というコンセプト名で発表、3年以上の開発・熟成期間を経て2021年6月に量産仕様として公開、2022年にF1チャンピオンのニコ・ロズベルグへの納車からカスタマーデリバリーがスタートした。
ブガッティ・リマック誕生
2021年、ポルシェとマテ・リマック自身が共同でBugatti Rimacを設立。あのブガッティが、創業20年に満たないクロアチアのEVベンチャー創業者の傘下に入る——という業界激震の出来事が起きた。マテ・リマック本人がBugatti Rimacの新CEOとして、次期シロン後継機(ハイブリッド)の開発を指揮している。
イタリア・モルスハイムの古き良きハイパーカーの聖地と、クロアチア・ザグレブのEVスタートアップが、いま同じ屋根の下で次世代ハイパーカーを設計している、という事実は10年前なら誰も信じなかっただろう。
リチャード・ハモンドが炎上した車、という事実
リマックの名前を一気に世界に知らしめたのは、実はブガッティとの提携でも世界記録の更新でもなく、2017年6月に起きたある「事故」だった。
グランドツアーの撮影でスイス・シュタンスで行われたヒルクライムのフィニッシュ直後、リチャード・ハモンドが搭乗したRimac Concept_Oneがコースを外れ、斜面を転落。車両は数回転した末に炎上・全焼した。ハモンド本人は脱出して一命を取り留めたが、膝に骨折を負う重傷であった。
2017年 ハモンド事件の顛末
搭乗車:Rimac Concept_One(世界限定8台)
場所:スイス・シュタンス ヒルクライム
状況:フィニッシュ後にコースアウト、斜面を転落し炎上全焼
ハモンドの状態:膝骨折、意識あり・自力脱出
車両の状態:完全焼失
この事故はグランドツアーの番組でも放送され、世界中で話題を集めた。ハモンド自身は後のインタビューで「あれはEVだったから助かった。ガソリン車だったら脱出できなかったかもしれない」と語っている——が、同乗していたジェームズ・メイからは「ガソリン車なら最初から炎上しなかっただろう」という辛辣なツッコミが入ったことも有名な話だ。
皮肉なのは、この事故がリマックという会社にとって最大の宣伝になってしまったことで、「あのハモンドが乗っていたやつ」という認知がリマックの名前を自動車ファン以外にも広めるきっかけになった。マテ・リマック自身は「ハモンドが無事だったことが何より大切。車は直せる」とコメントしており、この一件がブランドの信頼を損なうことなく、むしろ「それでも走り続ける会社」として評価される転機になったとも言われている。
ちなみに、事故を起こしたConcept_Oneと今回のネヴェーラは別世代の車両だが、その思想と技術は直接引き継がれている。前澤杯の会場でネヴェーラを眺めながら、あの炎上した1台の先にこれがある、と考えると、なんとも感慨深いものがあった。
パワートレイン
駆動系は完全な4モーター独立駆動構成で、各ホイールに1基ずつ、4基のサーフェスマウント型永久磁石モーターを搭載する。
総合出力は1,914PS(1,408kW)、トルクはモーター合計で2,340Nm、ホイールトルクに換算すると13,430Nmという、内燃機関では絶対に到達できない領域の数値を叩き出す。
バッテリーは独自開発のH型120kWhリチウムマンガンニッケル電池で、セル総数は6,960個、重量配分48:52を実現するためキャビン下と中央トンネルに配置されている。このバッテリーパックはカーボンモノコックの構造の37%を担うという、「構造材としてのバッテリー」という新しい発想が取り入れられている。
2023年5月、ネヴェーラは1日に23件のパフォーマンス世界記録を樹立し、事実上「世界最速の電動ハイパーカー」の地位を確立した。
0~100km/h加速比較(市販車)
| モデル | 0-100km/h | パワートレイン |
|---|---|---|
| Rimac Nevera | 1.81秒 | 4モーター BEV |
| Tesla Model S Plaid | 2.1秒 | 3モーター BEV |
| Aston Martin Valkyrie | 約2.5秒 | V12 NA + HEV |
| Bugatti Chiron | 2.4秒 | W16 クアッドターボ |
| Mercedes-AMG ONE | 2.9秒 | F1派生 V6 PHEV |
| Ferrari Daytona SP3 | 2.85秒 | V12 NA |
「クラヴァット」というクロアチアの誇り

エクステリアはC_Twoコンセプトのシルエットを保ちつつ、量産化に伴って空力効率が34%向上している。フロントボンネット、ディフューザー、リアウイングにはアクティブエアロが採用され、「低ドラッグモード」と「高ダウンフォースモード」を切り替え可能。

側面には、Rimac伝統の意匠である「クラヴァット」と呼ばれる装飾ラインが走る。これは17世紀にクロアチア兵士が結んでいたネクタイをモチーフにしたもので、現代のネクタイ(cravat)の語源にもなっているクロアチアの民族的アイデンティティを象徴する装飾だ。リマックは「2011年のConcept_Oneから一貫してこのクラヴァットを車体に刻んできた」とアピールしており、単なる飾りではなくリアクーリング用の吸気口としても機能する。デザインと機能が完全に一体化している。

リマックは「デザイナーの自己主張」よりも「機能の美しさ」を優先する姿勢を貫いており、ランボルギーニやパガーニのような派手さよりも、研ぎ澄まされた道具のような佇まいを重視している。

V12のサウンドを愛する私としては、寂しさも覚えた一方で、EVハイパーカーがここまで完成形に近づいていることへの純粋な驚きの方が勝った1台であった。フェラーリやランボルギーニが必死に内燃機関の最後を謳歌している最中、クロアチアの若者は既にずっと先の景色を見ているのかもしれない。

Rimac Nevera 諸元表(クリックで展開)
| 駆動方式 | 4モーター独立駆動 AWD |
| 総合出力 | 1,914PS(1,408kW) |
| モータートルク | 2,340Nm |
| ホイールトルク | 13,430Nm |
| バッテリー | 120kWh(H型構造材一体式) |
| 0-100km/h | 1.81秒(1フィートロールアウト) |
| 0-300km/h | 9.22秒 |
| 最高速度 | 412km/h |
| 航続距離(WLTP) | 489km |
| シャシー | カーボンモノコック(バッテリー統合構造) |
| ブレーキ | Brembo CCMR 390mm カーボンセラミック |
| 限定生産数 | 150台 |
| 価格(2026推定) | 約3.5〜4億円 |
Rolls-Royce Phantom ORIBE

※以下は会場で写真に収めることが出来なかった展示車両についての参考情報になる。
前澤杯の会場には、前澤友作氏が所有するロールス・ロイス ファントム・オリベと思われる車両も展示されていた。これはロールス・ロイス・モーター・カーズとエルメスが初めてタッグを組んで製作した、世界に1台だけのフルビスポークモデルとなる。
ロールス・ロイス×エルメス、初の共作

ベースは8代目ファントム(Phantom VIII EWB)で、前澤氏の自家用プライベート・ジェットと合わせた「Land Jet(陸のジェット)」というコンセプトのもと、約3年半の歳月をかけて製作された。車両価格は約3億円と報じられている。

最大の特徴は、日本の安土桃山時代の陶器「織部焼」をモチーフにしたボディカラーで、上部は光沢のある暗緑色の釉薬を再現した専用ビスポークカラー「MZオリベ・グリーン」、下部はクリームホワイトの2トーンカラー。


この「MZオリベ・グリーン」は、英国グッドウッドのサーフェス・フィニッシュ・センターの職人が数ヶ月かけて開発した世界に1色だけの塗料で、前澤氏のプライベート・ジェットと同じ塗装を施せるよう調合されている。世界の富豪から「同じ色を使いたい」というオファーが数多くあったものの、前澤氏が全て断っているため、今後もMZオリベ・グリーンはこの1台とプライベート・ジェットにしか存在しない色となる。
個人的に唸ったのが、サイドシルの刻印だ。通常はオーナー名や限定生産番号が入る場所に、前澤氏は「Driven by Takane & Kanno」——専属ドライバー2名の名前を刻んだ。所有者ではなく運転する人の名を刻むという発想は、車そのものへの愛情と、付き合う人への敬意の両方を感じさせる粋な選択だ。
インテリアはエルメスのエニアグリーンレザーで統一され、アームレストやヘッドライナーにはエルメスの象徴的なキャンバス素材「トワル・アッシュ」を使用。スピーカーのフレットにはオープンポア・ロイヤルウォルナットを加工した木製カバーが採用されるなど、素材選定にも徹底的なこだわりが詰め込まれている。
パワートレインは6.75L V12ツインターボ(最高出力571PS/900Nm)を搭載し、8速ATと組み合わせる。

Phantom VIII EWB 諸元表
| 全長×全幅×全高 | 5,982×2,018×1,656mm |
| エンジン型式 | 6.75L ツインターボV12 |
| 最高出力 | 571PS |
| 最大トルク | 900Nm |
| トランスミッション | 8速AT |
| 生産台数 | 1台(Oribe仕様としては世界唯一) |
| 価格 | 約3億円 |
Mercedes-Maybach G650 Landaulet

もう1台、前澤氏所有の有名な1台がこちらのメルセデス・マイバッハ G650 ランドレーである。会場で私が写真を撮り損ねたGクラス風の車両も、おそらくこのモデルになる。
20世紀貴族文化の現代アップデート
2017年にジュネーブモーターショーで発表された、Gクラス史上最も豪華な限定モデルで、生産はわずか99台のみ。日本には数台しか入って来ておらず、前澤氏の個体はボディカラー「デジーノミスティックホワイト」に品川ナンバー「や2020」(会社名ZOZOの語呂合わせ)という個性的な仕様になっている。

「ランドレー」とは、後席ルーフ部分のみオープンになる特殊なボディスタイルを指す伝統的な名称で、20世紀初頭のコーチビルダーが王族・貴族向けに製作した豪華仕様を現代に蘇らせたもの。

御者席(フロント)は屋根付き、貴賓席(リア)はパレードのために開閉可能、という構成は、ローマ教皇のパパモビールにも近い文脈を持つ。
フロントはG500 4×4²のポータルアクスルを受け継ぐ極端な車高アップ(地上高約45cm)、リアはマイバッハ譲りのフルリクライニング式エグゼクティブシート、そして中央のルーフのみが電動で格納されるランドレートップ——という、乗用SUVとしては常軌を逸した組み合わせで構成されている。

パワートレインは6.0L V12ツインターボを搭載し、最高出力630PS、最大トルク1,000Nmを発生。ゲレンデヴァーゲンの無骨さに、マイバッハの極致的な贅沢さと、ランドレーのクラシックさを重ね合わせた、自動車史的にも稀有な1台といえる。
「貴族の趣味を21世紀の技術で蘇らせる」というコンセプトは、ロールス・ロイス ファントム・オリベとも通じるところがあり、前澤氏のコレクション傾向の一端が垣間見える1台でもある。
Mercedes-Maybach G650 Landaulet 諸元表
| 全長×全幅×全高 | 5,345×2,110×2,235mm |
| エンジン型式 | 6.0L V12 ツインターボ |
| 最高出力 | 630PS / 4,800-5,500rpm |
| 最大トルク | 1,000Nm / 2,300-4,500rpm |
| トランスミッション | 7速AT |
| 駆動方式 | 4WD(ポータルアクスル式) |
| 0-100km/h | 5.9秒 |
| 最高速度 | 180km/h(リミッター) |
| 限定生産数 | 99台 |
| 価格(2017年発表時) | 約1億円 |
まとめ
昨年の房総走祭2025がサーキットを舞台にしたハイパーカーの「動」の祭典だったとすれば、今回の前澤杯2026はゴルフコースという非日常の舞台に、1人のオーナーのコレクションがズラリと並ぶ「静」の展覧会であった。
プロゴルフツアーを観戦しながら、同じ会場内にValkyrie、AMG ONE、Jesko、Neveraという、現在市販が許された最上位ハイパーカー群が手の届く距離に展示されているという異常な状況は、他のトーナメントではまず体験できないものであった。
そして、前澤友作氏という1人のオーナーのコレクションが、ここまで各メーカーの頂点を拾い集めているという事実にも驚かされた。フェラーリ、アストンマーティン、メルセデスAMG、ケーニグセグ、リマック、パガーニ、ブガッティ、ロールス・ロイス、メルセデス・マイバッハ……それぞれのブランドが「自社の頂点はこれである」と差し出した1台を、ほぼ全て集めているというのは、もはやコレクションの域を超えた「現代ハイパーカーのミュージアム」と言えた。

