フォルクスワーゲンの乾式7速DSGからシャリシャリ異音がする…浸水で錆びたクラッチ・フライホイールを修理
- 大雨時には要注意
- パサートヴァリアントから「シャリシャリ」という異音が発生
- フォルクスワーゲンに搭載されている7速乾式DSGとは
- なぜ水が入るとクラッチやフライホイールが錆びるの
- 車体下側からトランスミッション周辺を確認
- 原因を確認するためトランスミッションを降ろす
- 取り外すとクラッチとフライホイールは赤錆だらけだった
- クラッチとフライホイールを新品へ交換
- 組み付け後はDSGの基本調整を実施
- クラッチ&フライホイール交換工賃
- 後期の車両では合わせ面付近を塞ぐゴム製部品も使われている
- 水溜まり走行後にDSGから異音が出たらどうする?
- 浸水とは別に、乾式7速DSGではクラッチ異音が出ることもある
- 乾式DSGのクラッチ異音は何kmくらいから出る?
- 私が特にクラッチ摩耗を見ることが多い車種
- 乾式7速DSGを搭載するVW車
- 変速のギクシャクやクリープ不良はソフトウェアで改善する場合もある
- 症状別に考えられる原因
- こんな症状が出たら一度ディーラーへ相談したい
- よくある質問(F&Q)
- まとめ
大雨時には要注意
パサートヴァリアントから、通常のエンジン音とは別に「シャリシャリ」という異音が発生していた。
この車両には、深い水溜まりを走行した履歴があった。実際にトランスミッションを取り外して確認すると、乾式DSGのクラッチとフライホイール周辺は大量の赤錆に覆われていた。
今回は、実際に発生していた異音から、水分が入り込むと何が起きるのか、トランスミッションの脱着、クラッチとフライホイールの状態、交換作業、DSGの基本調整、そして約50万円となった修理費用までを、実際の整備写真とともに紹介していきたい。
パサートヴァリアントから「シャリシャリ」という異音が発生
入庫時に伺ったのは、走行中にエンジンルームのあたりから聞き慣れない音がするという内容だった。加えて、深い水溜まりを走行してしまったという履歴があった。
この2つが揃うと、真っ先に頭に浮かぶのがトランスミッション周辺への水分の侵入になる。
今回実際に発生していた異音がこちら。
通常のエンジン音に重なって、金属同士が擦れるようなシャリシャリ音が確認できる。
エンジンルーム周辺の異音は、補機ベルトの周辺部品やその他の回転部が音源になっていることもある。 似た音でも原因が違うケースはあるため、実際には音源の切り分けと診断が必要になる。 今回は水溜まり走行という履歴と、音の性質を合わせてトランスミッション側を疑った。
フォルクスワーゲンに搭載されている7速乾式DSGとは
DSGはVWやアウディが採用しているデュアルクラッチトランスミッションのことで、内部に2枚のクラッチを持っている。
ざっくり言えば、片方のクラッチが奇数段、もう片方が偶数段を担当している。走行中に次の段をあらかじめ準備しておき、変速の瞬間に2枚のクラッチを入れ替えることで、素早くつながりの良い変速を実現している。この構造上、クラッチは走行のたびに切ったりつないだりを繰り返す重要な部品になる。
クラッチがオイルに浸っていない構造。 オイルによる引きずり抵抗が少なく効率面で有利とされる一方、 クラッチ部は油に守られていない。
クラッチがオイルの中で作動する構造。 オイルが冷却や潤滑を担うため、 比較的大きなトルクへの対応に向くとされる。
どちらの方式が採用されるかは、車種、年式、エンジンなどによって異なる。今回の車両については乾式DSGを搭載した個体として作業を行っている。トランスミッションコードや正確な型式までは記録が残っていないため、この記事では「今回の車両に搭載されている乾式DSG」として扱う。
クラッチは、エンジンの駆動力をトランスミッションへ伝えたり、切り離したりする部品になる。この部分の状態が悪化すると、一般的には発進時のジャダーや異音、変速時の違和感、クラッチの作動不良といった症状につながる可能性がある。
そしてフライホイールは、エンジンとトランスミッションの間に位置し、エンジンからの回転をクラッチ側へ伝える部品になる。どちらもエンジンの回転を受け続ける、駆動系の要となる箇所だ。
なぜ水が入るとクラッチやフライホイールが錆びるの
乾式DSGのクラッチは、名前の通りオイルに浸っていない。クラッチハウジングの内部で、乾いた状態のまま作動している。
そこへ水分が入り込むとどうなるか。おおまかには次のような流れになる。
今回の車両については、深い水溜まりを走行した後、クラッチハウジング内部に水分が入り込んだと考えられる。ただし、どの経路から入ったのかまでは特定できていないため、そこは断定せずに書いておきたい。
車体下側からトランスミッション周辺を確認
今回のパサートヴァリアントでは、トランスミッション側が完全に覆われる構造ではなく、下側からハウジング周辺を確認できる状態だった。
エンジンとトランスミッションの間には金属プレートが挟まれており、水の侵入を防ぐ工夫はされている。ただ、深い水溜まりを走行するような状況では、その効果にも限界があったということになる。
原因を確認するためトランスミッションを降ろす
クラッチやフライホイールの状態を確認するには、トランスミッションを車両から降ろすしかない。ここからが本番になる。
続いて、専用のSST(特殊工具)を使ってトランスミッションからマルチプルクラッチを取り外し、新品への交換準備を進めていく。
クラッチとフライホイールは、エンジンとトランスミッションが合わさる面に挟まれる形で組まれている。 つまり、両者を切り離さなければ現物を見ることすらできない。 エンジンやミッションを支持したうえで足回りまで分解する必要があり、 この作業量がそのまま工賃に反映される。 「クラッチの状態を見るだけ」というわけにはいかないのが、 この修理が高額になりやすい理由になる。
取り外すとクラッチとフライホイールは赤錆だらけだった
正常な状態であれば、クラッチが当たる面は摩擦によって金属地が出ている。今回はその面まで赤錆に覆われていた。ここまで錆が回っていると、表面の状態は元に戻らない。
クラッチ側も同様だった。乾式である以上、この部分にオイルの保護はない。水分が入ればそのまま錆が進む。動画で聞こえていた金属が擦れるような音の背景には、この状態があったと考えている。
ただし、どの部品同士の摩擦で音が出ていたのかまでは、分解した状態から断定できるものではない。確実に言えるのは、クラッチとフライホイールの摩擦面が本来の状態から大きく変わっていたということになる。
クラッチを作動させるレリーズ機構の周辺にも錆が及んでいた。ここまでくると、部分的に磨いて済ませられる状態ではない。今回確認した損傷状態から、交換で対応することを選択した。
クラッチとフライホイールを新品へ交換
組み付け後はDSGの基本調整を実施
トランスミッションを再度取り付けた後、クラッチの基本調整を実施して作業は終了となる。
ここは機械の組み付けだけでは終わらない部分になる。DSGでは、交換した部品や作業内容によって、診断機を使用した基本調整や学習が必要になる場合がある。新しいクラッチの状態をコントロールユニット側に覚えさせる工程だと考えてもらえればいい。
この調整を省くと、変速の感触に違和感が残ることもある。DSGのクラッチ交換が「部品を替えれば終わり」ではないと言われるのは、こうした理由からになる。
今回の車両はクラッチとフライホイールの交換で対応できた。ただ、駆動系の異音を放置すると、修理範囲が広がる可能性はある。
過去には、 フライホイールの重大な破損によってトランスミッションケースまで損傷し、約90万円規模の修理見積もりになった車両 も経験している。 今回のパサートが必ず同じ経過をたどるという意味ではないが、 駆動系から異音が出ている状態を長く続けるのは避けたい。
トランスミッション本体まで交換が必要になれば、費用はさらに大きくなる。異音の段階で原因を確認できたことは、結果的に被害を最小限に抑えられたケースだったと思っている。
クラッチ&フライホイール交換工賃
なお今回の作業は、車両保険にて対応させていただいた。ただし水溜まり走行による損害が必ず車両保険の対象になるわけではない。契約内容、事故の状況、保険会社の判断によって扱いは変わってくるため、同じような状況になった場合はまず保険会社へ確認してほしい。
後期の車両では合わせ面付近を塞ぐゴム製部品も使われている
今回の修理を通して気になっていたことがある。同じVWでも、比較的新しい世代の車両には、エンジンとトランスミッションの合わせ面付近に細長いゴム製の部品が付いているものがあるということだ。

写真の通り、エンジンとトランスミッションが合わさる面に沿って細長く伸びる形状をしている。丸い栓のような単純なものではなく、途中にいくつかの開口部を覆う部分があり、押し込み式のクリップで固定される構造になっていた。
私が実際に見てきた範囲では、Golf 7.5やGolf 8、T-Rocといった比較的新しい世代の車両で、この部品が付いているものを確認している。おおむね2021年前後の車両で目にする機会が多い。
今回のパサートのように水分がクラッチハウジング側へ入り込んだ事例を経験していると、こうした部品の存在はやはり気になるところだ。

部品には「04E 103 033 D」という品番が刻印されていた。
純正部品の情報を確認すると、この部品は「Plug」、ドイツ語圏では「Stopfen」として登録されている。日本語にすれば栓、あるいは開口部を塞ぐ部品ということになる。旧品番は04E 103 033 Aで、そこから置き換えられている。
ここは誤解のないように書いておきたい。
この部品が付いていれば、開口部から水や泥が直接入り込みにくくなることは期待できる。ただし、正式な名称からも分かる通り、これは開口部を塞ぐ栓であって、防水性能をうたった部品として登録されているわけではない。
このゴム製部品が付いていても、クラッチハウジングが完全な防水構造になるわけではない。 今回のパサートのように車体下部まで水に浸かるような状況では、水分の侵入を完全に防げるものではなく、 あくまで水や異物が直接入り込みにくくするための補助的なものと考えた方がいい。 付いているから深い水溜まりに入って大丈夫、という話ではまったくない。
「では自分の車にも付けられるのか」と考える方もいると思う。ここは慎重に判断してほしい。
純正部品の適合情報を見ると、この品番はGolf(2017年以降の世代)、Passat 3G、Touran 5T、T-Roc、T-Cross、Polo AW、Tiguan、Arteonなど、幅広いモデルの適合として挙げられている。ただしこれは、同じEA211系エンジンを積む車両で共通して使われている部品ということであって、年式やエンジン、仕様によって装着の有無や取り付け部の形状が異なる可能性がある。
装着を検討する場合は、車台番号をVolkswagen正規ディーラーへ伝えて、自分の車両への適合可否を確認したうえで部品注文や取り付けを相談してほしい。車台番号から引ける情報が一番確実になる。
水溜まり走行後にDSGから異音が出たらどうする?
整備工場へ持ち込む際、次の情報が揃っていると診断がスムーズになる。
- 異音が出始めた時期
- 深い水溜まりや冠水路を走行した心当たりがあるか
- どんな時に音が出るか(停車中、走行中、発進時など)
- 変速時の違和感や警告表示の有無
- 可能であれば異音を録音・録画したもの
特に音は、その場で再現しないこともある。スマートフォンで録っておくだけでも診断の助けになる。今回のように動画があると、症状の共有が一気に楽になる。
浸水とは別に、乾式7速DSGではクラッチ異音が出ることもある
ここまでは今回の浸水修理の話になる。ただ、乾式7速DSGで相談を受ける症状は、これだけではない。むしろ日常的に多いのは、通常使用のなかで出てくるクラッチ周りの異音や違和感の方だ。
今回の記事を読んで「うちの車も音がする」と思った方もいると思うので、水とは関係のない症状についても整理しておきたい。
私が現場でよく相談を受けるのが、発進時に出る高い音になる。
- 発進時に「キュルキュル」「キーキー」といった高い音が出る
- 1速から2速付近で音が出る
- 2速から3速付近で音が出る
- 低速からアクセルを踏み増したときに音が出る
今回のパサートのようなシャリシャリ音とは、音の質からして違う。笛のような高い音、あるいは擦れるような音として表現されることが多い。
ここで気を付けたいのが、高い音が出ているからといって、必ずクラッチ交換になるとは限らないという点になる。乾式クラッチは油に浸っていない構造上、条件によって振動が音として出ることがある。摩耗しているのか、それとも別の要因なのかは、実際に診断してみないと分からない。
音や振動が出る場面によっても、疑う方向は変わってくる。私が相談を受けてきた範囲だと、次のような訴えが多い。
- 発進時に振動する、ジャダーが出る
- 低速の2速でアクセルを踏むと振動する
- 5〜10km/h付近から再加速するとガクガクする
- 1速から2速で数秒間ジャダーが出る
- 2速から3速で擦れるような音、ギャーという音がする
- 低速域で変速がギクシャクする
- 段差や荒れた路面を低速で走ったときにガラガラ、カラカラという音がする
乾式7速DSGは2枚のクラッチを持っていて、大まかにK1が奇数段側、K2が偶数段側とリバースを担当している。つまり1速→2速→3速という低速域では、K1とK2を交互に使いながら駆動力を伝えていることになる。
「1→2速で音がするからK1の故障」「2→3速だからK2」 といった単純な切り分けはできない。 どちらのクラッチも低速域では出番があるうえ、 音の原因がクラッチ以外にあることもある。 症状が出る場面は診断の手掛かりにはなるが、 それだけで故障箇所は決まらない。
乾式DSGのクラッチ異音は何kmくらいから出る?
相談を受けるときに必ず聞かれるのが、走行距離との関係になる。ここは私の経験として書いておきたい。
私が整備現場で見てきた範囲では、 早い車両では2万km前後から異音や違和感を訴えるケースを経験している。 そして6万kmを超えてくると、クラッチ摩耗が進んだ車両を見る機会が増えてくる印象がある。
ただしこれは、 メーカーが公表しているクラッチの寿命や故障率ではない。 あくまで私が現場で受けてきた相談の傾向になる。
走行距離だけでクラッチの状態が決まるわけでもない。同じ距離を走っていても、状態はかなり違う。影響しそうな条件を挙げると、次のようなものになる。
- 渋滞や低速走行が多く、発進停止の回数が多い
- 坂道の多い環境で乗ることが多い
- クリープ状態のまま長く動かす機会が多い
- 乗車人数や積載量が多い
- ドライバーの操作の仕方(半クラッチ的な使い方など)
- クラッチの世代、制御ソフトウェア、部品の改良状況
乾式クラッチは油に浸っていないぶん、熱の逃げ場が湿式より少ない。渋滞でじりじりと進むような使い方が続けば、それだけクラッチが仕事をする時間は長くなる。「2万kmで壊れる」「6万kmが寿命」といった話ではなく、使われ方の積み重ねで状態が変わっていく部品だと考えてもらうのが近い。
私が特にクラッチ摩耗を見ることが多い車種
3列シートを持つミニバンで、家族での移動に使われることが多い。乗車人数が増えれば、それだけ発進時にクラッチが受け持つ負荷も増える。送迎で発進停止を繰り返す使い方も多く、距離のわりにクラッチの出番が多くなりやすい車という印象がある。

今回修理したのもこの系統になる。ボディサイズが大きく、荷物を積んで長距離を走る使い方をされることも多い。1.4Lというエンジンサイズに対して車体は立派なので、発進時のクラッチへの負担という点では条件が厳しくなる側だと思っている。
同じ1.4 TSIでも、ポロやゴルフと比べれば、3列シートのトゥーランや車体の大きいパサートの方が車両重量は大きくなる。正確な数値は年式やグレードで変わるため、気になる場合はカタログの諸元で確認してほしい。
ちなみに乾式7速DSGは、比較的小さめのトルクに対応する設計とされていて、対応するトルクの上限はおよそ250Nmとされている。エンジン側の出力に対して余裕が大きい構造ではない、ということになる。
とはいえ、 「車重が重いからクラッチが必ず早く減る」と断定はできない。 使われ方、走行環境、部品の世代、制御ソフトウェアなど、 絡む要素が多すぎるためだ。 重量のある車両では発進時にクラッチが受け持つ負荷も考慮する必要がある、 という程度に捉えてほしい。
乾式7速DSGを搭載するVW車
そもそも自分の車が乾式7速DSGなのか分からない、という方も多いと思う。
乾式7速DSGは、VAGグループでDQ200と呼ばれ、VW向けには0AM、後に0CWというコードでも扱われている。
注意したいのは 「7速DSG=すべてDQ200」ではない という点になる。7速でも湿式のDSGは存在するし、 同じ車種でも1.4 TSIは乾式7速、2.0 TSIは湿式といったように、 エンジンや仕様によって組み合わせが変わる。 車種名だけで判断せず、実際のトランスミッション型式を確認してほしい。
2008年から展開され、1.2L FSIクラスから小排気量の各エンジンに搭載されてきた。クラッチはオイルに浸らない乾式で、湿式のDQ250とは構造そのものが異なる。
Polo系
- Polo(6R / 6C)1.2 TSIなどの小排気量ターボ搭載グレードで乾式7速DSGの組み合わせが見られる。GTIなど上位グレードは別のトランスミッションになる場合がある
- Polo(AW)グレードによって搭載トランスミッションが異なるため、個別に確認が必要
※ポロは世代・グレードによる違いが大きいので、型式の確認が特に重要になる。
Golf系
- Golf 6 / Golf 7 / Golf 7.51.2 TSI・1.4 TSIといった小排気量グレードで乾式7速DSGの搭載例がある。GTI・Rなどは湿式のDSGになる
- Golf Variantハッチバックと同様に、エンジン・グレードによって組み合わせが変わる
- Golf 8該当する仕様で搭載例があるが、クラッチやメカトロニクス、ソフトウェアの世代が旧型とは異なる
- Scirocco / The Beetle / Jetta小排気量のTSIグレードで搭載例が見られる
Touran・Passat系
- Golf Touran(1T後期 / 5T)1.4 TSIグレードで乾式7速DSGの搭載例がある。私が症状を見る機会の多い車のひとつ
- Passat / Passat Variant(B7 / B8)1.4 TSIグレードで乾式7速DSGの搭載例がある。今回修理した車両もこの系統になる
※2.0 TSIなど上位エンジンでは別のトランスミッションが組み合わされる場合がある。
変速のギクシャクやクリープ不良はソフトウェアで改善する場合もある
もうひとつ、現場でよく相談されるのが変速フィーリングの違和感になる。
低速域で変速がギクシャクする、発進の仕方が不自然でクリープ症状が発生しないといった相談を受けることがある。ドライバーとしては「何かおかしい」という感覚が続く状態だ。
ブレーキを離しても通常のようにゆっくり前進しない、いわゆるクリープが弱い・出ないという症状や、トランスミッションエラーの表示についての相談を受けることがある。
こうした症状のうち、ギヤボックスECUのソフトウェアアップデートによって改善する車両が存在する、というのが私の経験になる。
乾式DSGでは、クラッチをどのタイミングでどれくらいつなぐかをギヤボックスECUが制御している。この制御の作り込みが更新されることで、変速や発進のフィーリングが変わることがある。
また、バッテリー交換や長期間の放置、ソフトウェア更新の後に、ギヤボックスがクラッチの学習値を失ってしまうことがあるとされていて、この場合は発進時のジャダーとして症状が出るため、診断機で基本設定の適応作業を行い、クラッチのつながる位置を再学習させるという対応がとられる。
ソフトウェアの更新で制御が改善されることはあっても、 物理的に摩耗した摩擦材が新品に戻るわけではない。 実際、クラッチが本当に摩耗している場合は交換するしかないとされている。 軽度の制御の違和感なら基本調整や更新で改善する可能性があり、 摩耗が限界ならクラッチ交換が必要になる。 この違いは押さえておきたい。
そのため「ギクシャクしたらアップデート」「クリープしないからソフト更新」と単純化はできない。同じような症状でも、原因によって対処方法は変わってくる。
症状別に考えられる原因
相談の多い症状を整理しておく。
| 症状 | 考えられる原因の候補 |
|---|---|
| 発進時にキーキー/キュルキュル音 | クラッチ周辺の振動、クラッチの状態など |
| 1→2速でジャダー | クラッチの状態、学習値、制御など |
| 2→3速で擦れるような異音 | クラッチ以外にギヤ選択や同期系まで含めた診断が必要 |
| 低速でギクシャクする | クラッチ、基本調整、ソフトウェアなど |
| クリープしない・弱い | クラッチ制御、学習値、クラッチの状態、メカトロニクスなど |
| トランスミッションエラー表示 | 表示だけでは判断できない。故障メモリの確認が必須 |
| 水溜まり走行後のシャリシャリ音 | 今回のパサートのように、クラッチ・フライホイール周辺の錆など |
※この表だけで故障箇所を断定することはできない。実際には症状の再現と診断機での確認が必要になる。
クラッチの調整値やトルク関連ではP177C・P177Dといったコードが確認されることがあり、クラッチ摩耗が進んだ車両ではクラッチ位置関連のコードが出ることもある。ただしコードは判断材料のひとつでしかなく、同じコードでも原因が分かれる。またクラッチ交換後にはTCUのソフトウェア更新と基本設定が必要になる場合があり、作業時のバッテリー電圧が低いと基本設定が失敗することもある
とされている。
こんな症状が出たら一度ディーラーへ相談したい
- 発進時のキーキー・キュルキュル音
- 発進時のジャダー
- 1→2速での強いギクシャク
- ブレーキを離してもクリープしない
- ギヤ表示の点滅
- トランスミッションエラーの表示
特にソフトウェア関連については、正規ディーラーへ相談するのが確実になる。理由は次の通りだ。
- 車台番号から、その車両に適用できる情報を確認できる
- 現在のソフトウェアバージョンを確認できる
- 該当する技術情報やサービス情報を確認できる
- 純正診断機で故障メモリの内容を確認できる
- メーカー指定のオンラインアップデートを実施できる
ただし、予約すれば必ず無料で更新してもらえるという話ではない。保証期間、車両の状態、適用される技術情報、作業内容によって7000円~20,000円程度の工賃が発生する可能性はある。そこは事前に確認しておきたい。
よくある質問(F&Q)
トランスミッションからシャリシャリ音がする原因は?
乾式DSGに水が入ることはある?
クラッチが錆びるとどうなる?
DSGから異音が出ても走行できる?
乾式DSGのクラッチ交換はいくら掛かる?
クラッチとフライホイールは同時交換?
DSGクラッチ交換後に基本調整は必要?
水溜まり走行による故障は車両保険が使える?
発進時のキュルキュル音はクラッチ摩耗?
乾式DSGのクラッチは何kmで交換になる?
クリープしないのはソフトウェア更新で直る?
自分の車が乾式7速DSGか調べるには?
クラッチに負担を掛けにくい乗り方は?
DSGの異音はクラッチ以外でも発生する?
まとめ
- パサートヴァリアントから金属が擦れるようなシャリシャリ音が発生していた
- 深い水溜まりを走行した後、クラッチハウジング内部に水分が入り込んだと考えられる
- トランスミッションを降ろすと、クラッチとフライホイール周辺は大量の赤錆に覆われていた
- 乾式DSGのクラッチはオイルに守られていないため、水分が入れば錆が進む
- クラッチとフライホイールを交換し、取り付け後にDSGの基本調整を実施
- 今回の修理費用は約30万円(詳細は後日追記予定)
- 過去にはフライホイールの重大破損でケースまで損傷し、約90万円規模の見積もりになった車両も経験している
- 浸水とは別に、乾式7速DSGでは発進時の高い音やジャダー、変速のギクシャク、クリープ不良といった症状もある
- 同じ症状でも原因は複数あり、基本調整やソフトウェア更新で改善するものと、クラッチ交換が必要なものがある
深い水溜まりは、通り抜けた直後は何事もなかったように見えることが多い。ただ今回のように、後から駆動系に影響が出てくることもある。冠水路を走ってしまった後に聞き慣れない音が出たら、早めに点検を受けてほしい。
そして乾式7速DSGは、決して「必ず壊れるトランスミッション」ではない。ただ、油に守られていないクラッチを使っている以上、状態の変化は音や振動として出てくる。おかしいと感じたときに早めに診てもらうことが、結果として一番費用を抑えられる方法だと思っている。
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