フォルクスワーゲン ティグアン TDIのDSG不具合。2速発進とトランスミッション警告灯の原因と修理方法

DSGの魅力と最近のトラブル
フォルクスワーゲンのティグアンTDIは、力強いTDIエンジンと7速ダブルクラッチギヤボックス(DSG、0BH/0BL)の組み合わせで、優れた走行性能と燃費効率を実現している。
このDSG技術は、1940年にルドルフ・クラング氏が考案したダブルクラッチシステムに起源を持ち、ポルシェのレーシングカー「Porsche 962C」を経て進化。
現代の7速DSG(0BH/0BL)は、ティグアンやシャランに搭載され、以下の特徴を備えている。
•高トルク対応: 最大600Nmのトルクを処理可能で、TDIエンジンのパワーを効率的に伝達。
•湿式クラッチ: 奇数段(1、3、5、7速)と偶数段(2、4、6速、リバース)を別々のクラッチで制御し、シフト時のタイムラグを最小化。湿式クラッチにより、発進時や加速時の振動(ジャダ)を軽減。
•ギヤスプレッド: 幅広い変速比(ティグアンで7.45)で、スムーズな加速と燃費効率を両立。
しかし、私が推しているTDIエンジンではここ1~2年になって以下のようなトラブルで来店されるお客様が増えている。
2速固定で発進し、4速までしか変速せず、6速への移行が遅い…
2速発進とフェイルセーフモード
お客様から「変速がおかしい」との相談を受け、早速車両を診断。リフトアップでDSGオイルの漏れを点検したが異常はなく、試乗での症状を検証した。
走行動画では、
以下の状態が確認できた。
•通常は1速で発進するところ、2速固定でスタート。
•回転数が上がっても4速に2段飛ばしで変速し、奇数段(1、3、5、7速)が使用不可。
•6速とリバースは正常に動作。
診断装置で故障コードを確認すると、
「P173500 クラッチポジションセンサー1(G617)電気的故障」
が検出。
このセンサーの不具合により、DSGのメカトロニクスがフェイルセーフモードに移行し、偶数段(2、4、6速、リバース)のみを使用する状態に制限されていた。
これは、車両の走行を可能な限り維持するためのDSGの安全設計になる。
メカトロニクス本体の交換
テストプランに基づく診断の結果、DSGメカトロニクス本体の交換が必要と判明した。
メカトロニクスは、クラッチやギヤの制御を司る心臓部で、クラッチポジションセンサー(G617)の故障が全体の不具合を引き起こしていた。
当ショップでは、将来的なリスクを避けるために中古品やECU修理は行わず、新品のメカトロニクスに交換している。
※今回は販売店の保証が適用され、お客様への請求はなかった。
メカトロニクス交換の手順
メカトロニクス交換のプロセスは以下の通りになる。
1. DSGオイルの抜き取り: 診断機での操作は不要。8mmヘックスソケットでドレーンプラグを外し、DSGオイル(G 052182)を抜き取る。ティグアンでは交換時に約5.5L必要。
2. カバーの取り外し: ハーネスブラケットを外し、T30トルクスビスを緩めてカバーを取り外す。
3. メカトロニクスの取り外し: 9本のトルクスビスを慎重に外し、メカトロニクスを分離。取り付け部を清掃。
4. 新品メカトロニクスの取り付け: 新品ユニットを装着し、トルクスビスで固定。
5. オイル充填と調整: 規定量(ティグアンで5.5L)のDSGオイルを充填後、診断機でメカトロニクスの基本調整を実施。
6. アダプテーションドライブと試乗: 調整後、走行テストを行い、正常動作を確認して車両を返却。
メカトロニクス交換費用
•交換工賃及び診断料等 34,000円
•メカトロニクス 342,000円 0BH325025PXZ3N
•カバー 20,500円 0GC325201L
•ボルト 960円(240×4) N 91032702
•ボルト 2,430円(270×9) N 10554002
•プラグ 1,100円 N 90965401
•ワッシャー 710円 N 0438092
•DSGオイル6L 44,600円 G 052182A2
税込み価格合計 490,270円
DSGメンテナンスのポイント
湿式DSGの性能を維持するには、定期的なメンテナンスも必要不可欠になる。
•オイル交換: 60,000kmごとにDSGオイルを交換。ギヤボックスオイルを入れる作業は専用工具が必要になる。
•オイルフィルター: オイル交換時に同時交換を推奨。交換はディーラーかプロショップにて行っていただきたい。
以下、オイル交換とオイル漏れのメンテナンス時期を表したグラフになる。
DSGのメンテナンススケジュール
フォルクスワーゲンの7速DSG(0BT/0BH)は優れた性能を発揮するが、定期的なメンテナンスが不可欠になる。特に、オイル交換とオイル漏れチェックは、ギヤボックスの長寿命化に欠かせない。以下のグラフは、ティグアンやシャランにおけるDSGのメンテナンススケジュールを示している。オイル交換(60,000kmまたは5年ごと)とオイル漏れチェック(30,000kmごと)のタイミングを、15年間または180,000kmまで視覚化した。スマートフォンではラベルを短縮(例:「60k」は60,000km)している。
このグラフから、オイル交換は5年または60,000kmごとに3回、オイル漏れチェックは2.5年または30,000kmごとに6回必要になる。オイル交換にはティグアン/シャランで6.0LのDSGオイル(G 052182)を使用し、純正診断機スキャンツールでのオイル管理が必要になる。オイル漏れチェックはギヤボックス損傷の早期発見に役に立つ。定期的なメンテナンスを怠ると、クラッチの摩耗やメカトロニクスの不具合リスクが高まるため、計画的な管理が重要となる。
まとめ
ティグアンTDIの2速発進トラブルは、クラッチポジションセンサー1(G617)の電気的故障によるメカトロニクスのフェイルセーフモードが原因であった。
DSGは高度な技術で快適なドライブを提供するが、60,000kmごとのオイル交換や正規ディーラーでの故障コードの確認など、定期メンテナンスが重要になる。
変速の違和感を感じたら、早めに担当者か販売店に連絡するように心掛けていただきたい。